チキンレース | ナノ





手をつないでデートをした。キ、キスもした。世間一般じゃそういう間柄を恋人って言うんじゃないだろうか。
…でも、わからない。いまのわたしと沖田くんの関係に名前をつけるなら、一体どんな名前になるんだろう。


「はあ………」


沖田くんはどうしてわたしにあんなことするんだろう。
あの人が、わたしを好き?……だめだ、どんだけ頭をフル回転させたって想像できやしない。だって散々わたしをいじめて喜んでいたような人だ。そんなの、ありえるはずがない


「なにしけたツラしてんでィ」
「うわ、出たっ!」
「あ?」
「なんでもないです…」


しまった、つい心の声が!もごもごと言い訳をすれば訝しげな顔をするものの、沖田くんに深く追及されることなく終わった。


「お前もう授業ねーだろ。帰んぞ」
「なんで知って…!って人のカバン勝手に取らないでよっ」
「うっせェ。取られたくなかったからさっさと歩きやがれ」


待ってよ!と手を伸ばしても競歩並みの速さで歩く沖田くんには到底追いつけなくて、走って背中を追う。

門の近くまで走るも、ぜーはーと肩で息をするようになって、もうダメだと立ち止まると視界の端に見たことのあるスニーカーが映る。


「お疲れさん」
「〜〜っ、どーも」


言いたいことが一気に喉まで競り上がってくるけど、疲れで結局言えたのはどうでもいい3文字だけだった。ほら、と投げられた自分のバックを受け取ってまた先を歩く沖田くんについていく。
なんだかんだ一緒に帰っている今の状況にため息しかでない。


最近なんとなくだけど、沖田くんと一緒にいることが気まずい。うまく話が出来ないし、顔だって真正面から見ることができない


「…」
「…」


だからこんな風に沈黙が続いたりすると、耐えられなくなってしまう


「あー、あのさ」
「なんでィ」
「坂田さん最近見ないよね、元気かな?坂田さん最初見たとき銀髪ですごいびっくりしちゃった。あれって生まれつきなの?ていうか沖田くんの知り合いなんだよね。いつ……」


ぺらぺらとどうでもいいような話をすると、なぜか沖田くんが怒ったような表情でわたしの腕をガッと掴んだ。


「え、なに!?」
「……うるせェよ」


そのまま沖田くんの顔が近づいてくる。わたしの頭のなかのどこかで危険信号が響いた。


「い、イヤだ!」


どん、と思いきり胸を押す。数歩よたよたと下がった沖田くんは何すんでィ、とわたしを睨みつける。
起こりたいのはこっちだ。どこまで人をおちょくれば気が済むのか。


「……じゃあ言ってよ」
「は?」
「なんでこういうことするのか、ちゃんと言ってよ!」


わからない
沖田くんがわたしに触れるたびちょっとだけ…ホントにちょっとだけ嬉しくなるけど、同時に不安にもなる。見えない霧のなかを必死にもがいているような、そんなもどかしくて怖くなるような気持ち

ひとりだけ舞い上がるのは恥ずかしい。わけもわからず手を繋がれたり、キスされるのは嫌だ。
嬉しい、不安、見えない、わからない。いろんな感情がぐるぐる頭をめぐって結局答えなんてひとつも出ない


だから、沖田くんからの言葉が欲しい。


「……ェ」
「え?」
「言えねェよ、んなこと」


なにを言われるのか、妙に緊張していると実際口に出されたのは予想外すぎるものだった。
うつむいていて沖田くんの表情はわからない。それとは反対に声はなんだか強ばっているみたいだ。

言えないと告げられたことがわたしの頭にガツンと衝撃を与えた。沖田くんはただからかっているだけだとわかっていたし、そういう答えも予想してた。その一方で心の中ではあるひとつの答えを期待してしまっていた。認めたくないけど、でも、


「………そっか」


ゆるい笑みを浮かべながら呟いた。やっぱり違ったみたいだ。だってほら、沖田くんだし。
仕方ない、よね


「…わたし、もう帰るね」
「…」
「ばいばい」


最後まで沖田くんはうつむいたままで、わたしはそのまま背中を向けた。追いかけてくる気配もなくて、まだ沖田くんが来てくれるんじゃないかって思う自分のあきらめの悪さに笑えた。

ぽつぽつと雨が降り始めた。そうだ、そういえば台風が近づいてるって天気予報で言ってた。




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