チキンレース | ナノ





沖田くんとはまあ相変わらずで、いじめられたり反抗して倍がえしにされたり。いたって普通な日々

たまに神楽ちゃんも来るけど前ほど沖田くんにつっかかっている様子はない。むしろ沖田くんのほうが避けてるというか軽くあしらっている気がする。
なんとなくそれが嬉しいような、恥ずかしいような。知らないフリをしてなんでもないように装ってみる


「よー」
「あ、こんにちは」


いつものように自由自在な方向に跳ねている銀髪に、なんだか笑ってしまう
最近どーよと言う坂田さんはにやけていて、たぶんきっとよくないことを考えてるんだろうなと思う


「最近って、」
「ほら沖田と神楽のこと。気になってたんだろ?」
「べ、べつになんとも思ってません!」
「ほー」


全然納得してない顔でまた笑っている。もう無視しようとそっぽを向いていると笑う声がする。


「まあ、応援してっから」
「なにをですか!」
「あー、じゃ俺行くわ」
「え」


突然先に行くと言われてわけも分からず坂田さんを見つめる。ぼりぼり頭を掻いてからまた続けた


「目の前から怖いお兄さんが来るし、俺まだ死にたくねェし」


ほら、と指し示しされた方向を見ると沖田くんがどすんどすんという効果音が似合うくらい不機嫌なままでこっちにやって来る。


「…なにしてんでィ」
「じゃーね名字ちゃん」
「あ、坂田さんっ」


ひらひら手を振ってそのまま行ってしまった。ていうかこの状況のまま二人きりにしてほしくなかったんだけど


「おい」
「は、はいいい!」
「……なんで旦那といたんでィ」
「たまたま会っただけだよ。ホントに、それだけ」
「お前はいつになったら…」
「え?」


下を向いてなにか言う沖田くんの言葉が聞こえない。そんなわたしの顔を見て大きなため息を落とす


「むかつく」


ぼそっと呟いたそれだけは聞こえて、文句を言おうとするも叶わなかった。
だんだん沖田くんが近づいてきて……あれ、なんか顔近くない?え、ちょっと待っ

ちゅ


「…………」
「なんでィ、その間抜けなツラは」
「いやだって、え、なに」
「そんな驚くようなことか、キスのひとつやふたつ」
「言うなァァ!」


女子校育ちのわたしだってわかる。沖田くんのあの行動がなにを意味するのかってことぐらい、わかってるけど。


「………な、んで」


だってそれは普通の友達にするものじゃない。もっとトクベツでちゃんと意味があって、


「好きだ大好き愛してる」
「!」
「…なんて言えば満足か?」
「ひ、ひど」
「……俺がひとりで想ってたってお前がそうやって自覚して想わなきゃ意味ねーんでィ」
「え?」


よく聞き取れなくて聞き返せば不機嫌そうに顔をしかめて、なんでもねーよと言われてしまった。
ていうかなんで言いくるめられてんの、わたし!怒鳴るとか殴るとかしても許されるはずだ。文句のひとつでも言ってやろう、と顔を上げると苦しそうにまゆを寄せた沖田くんがいた。


「……沖田くん?」
「こっち見んな」
「う、わ」


グイ、と手を引かれてそのまま沖田くんの胸へダイブ。ええええ!と戸惑っているとぎゅっと強く抱き締められてもう黙っているしかなくなった。


「…あのー」
「………あとちょっとこのままでいさせろ」


いつも強気なくせに、なんでこういうときだけそんな泣きそうになるくらい切ない声出すの

ふざけんな、って怒ろうと思えばできたし平手で沖田くんの右頬を打つことだってできた。それでもわたしがそれをしなかったのは、沖田くんとキスして嫌じゃなかったから。呼吸さえうまくできないほど、心臓がドキドキしていたから。


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