遠恋シリーズ | ナノ
 


 届かない電波





 会える。土方くんに会
 える。そう考えるとど
 んなに多くの課題だっ
 て、いくらでもこなせ
 る気がした。

 新しい服や、美容院に
 行くためにバイトを増
 やした。ファッション
 雑誌を立ち読みして、
 服の研究をした。ダイ
 エットのためにバスを
 使うのを止め、歩くよ
 うにした。




 「最近気合い入ってる
 ね。何かあんの?」
 「うふふ」
 「もしかして遠恋中の
 彼氏?会うの?」
 「まあねー」


 羨ましいなオイ、と独
 り身の友達から少々痛
 い祝福を受ける。それ
 でも頬は緩みっぱなし
 でにやついてしまう。
 あと、3日。3日経った
 ら彼に会える。





 待ち合わせの時間より
 早めに来た。こうして
 待っている時でさえ、
 楽しい。


 「久しぶり」


 声をかけられ、くるり
 と振り向く。そこには
 少しだけ大人になった
 土方くんがいた。


 「久しぶり」
 「元気か?」
 「うん、土方くんは?」
 「ぼちぼち、だな」


 ドキドキと高鳴る胸の
 音が聞こえてないか不
 安になってしまうほど
 、緊張している。そっ
 と隣を盗み見るが、土
 方くんは無表情。緊張
 しているのはわたしだ
 けなのかと思うと、ち
 ょっと寂しくなった。



 「大学はどう?」
 「課題とかは大変だけ
 ど、おもしろいヤツが
 多いから退屈しねーよ
 」


 そう言って笑う土方く
 んの横顔はわたしの知
 らない表情だった。そ
 れから友達の話や勉強
 のことまで話題が尽き
 ることはなかった。

 他愛ない話をしている
 とプルル、とコール音
 が鳴り響いて土方くん
 の携帯が光る。悪い、
 と一言呟いて電話をと
 る。


 「もしもし」
 「………」
 「あァ」
 「………」
 「ん、分かった。じゃ
 あ明日な」


 会話の切れ間に聞こえ
 たのはかん高い女の子
 の声。うっすらと笑み
 をこぼしている土方く
 んがひどく残酷に見え
 る。
 電話を終えた土方くん
 が立ち上がる。ぼうっ
 としていた頭を覚醒さ
 せて、慌てて立ち上が
 る。


 「そろそろ帰るわ」
 「でも、まだ時間ある
 よ」
 「明日早いんだ、ごめ
 んな。」


 くしゃりと髪を撫でて
 、土方くんは背中を向
 ける。バイバイ、と小
 さく言った言葉を届か
 なかったらしく、振り
 返ることなく去って行
 ってまった。




 『じゃあまた明日な』


 土方くんが女の子に言
 った言葉が頭をループ
 する。わたしは土方く
 んの明日を知ることが
 できない。メールで伝
 えられるのはあくまで
 今日起きたこと。その
 日、土方くんが何を話
 してどんな風に笑った
 のか。
 わたしは知ることがで
 きない。



090426


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