遠恋シリーズ | ナノ
電波塔越しの愛
携帯が大切だという子
はたくさんいるだろう
。わたしもその中の1
人。携帯がないと不安
だし、何よりわたしと
彼を繋ぐ数少ない絆な
のだ。
今日はいつも通りの毎
日でした。一人暮らし
にもやっと慣れてきて
最近は自炊もするよう
になったよ
今度何か作ってあげる
『今度』がいつになる
か分からない。小さく
息を吐き、送信ボタン
を押す。たったこれだ
けの動作でわたしと彼
の世界は繋がっていく
。
突然遠くの大学に行く
と言われてから一体何
日が過ぎたんだろう。
大学は別々になってし
まうことは薄々気づい
ていたけど、まさかこ
んな遠く離れるとは思
っていなかった。
どんなに好きでも抱き
しめてくれない。どん
なに悲しくてもそばに
いてくれない。クリス
マスも誕生日も一緒に
過ごせない。
距離とはこういうこと
なんだと、わたしはそ
こで初めて知ったのだ
。
それでも寂しい、とは
どうしても言えなかっ
た。だんだん大人にな
っていく土方くんに、
こんな弱い自分を見せ
られない。ちっぽけな
プライドがわたしをか
ろうじて大きく見せて
くれた。
「会いたいよ」
ぽつりと呟いた願いは
肌寒い夜空に消えた。
ブーブー、と小さく震
えたポケットから慌て
て携帯を取り出す。
相手はやっぱり土方く
んからで、先ほどのメ
ールの返事と今週の日
曜日に会えないか、と
いう久しぶりのデート
の誘いがあった。もち
ろん行く、とすぐさま
返信をして携帯を閉じ
た。
どうやら、会いたいと
思っているのはわたし
だけじゃないようだ。
090425
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