遠恋シリーズ | ナノ
 


 手繰り寄せるように





 部屋の中央にあるテー
 ブルの周りに向かい合
 うようにして座る。


 「…どうして土方くん
 に電話した時、女の子
 の声が聞こえたの?」


 ぎゅっと握った手を見
 つめながら、小さな声
 で言う。もし、否定し
 てくれなかったら?女
 の子の存在を認めて本
 当に彼女が好きだと言
 われたら?
 考えれば考えるほど真
 実を知るのが怖くなる
 。臆病になってしまう
 。それでもやっぱり土
 方くんのことは一番に
 わかっていたいと思う
 んだよ
 下ろしていた目線をぐ
 っと引き上げて向かい
 にいる土方くんを見つ
 めた。




 「率直に言って、浮気
 でもなんでもない。で
 も、」


 良かったと安心するも
 、すぐに事実を叩きつ
 けられる。


 「あの時、俺の部屋に
 女がいたことは否定し
 ない」


 泣きそうになって、眉
 間に力をこめる。ここ
 で泣いたらちゃんと知
 れなくなりそうな気が
 する。うん、となんと
 か頷いて先を促す。


 「あの日、飲み会があ
 ってそんとき酔いつぶ
 れた女を介抱した。そ
 んだけ」


 あっさり切り捨てるよ
 うな言い方に呆然とす
 る。それだけ?と物足
 りない表情を作ると、
 小さく舌打ちをされる
 。


 「他になにが知りたい
 んだよ」


 めんどくさそうに煙草
 を取り出す土方くんの
 動きを目で追う。こん
 な土方くん、わたしは
 知らない。知りたくな
 い。




 「も、いい」


 ぎゅっと手に力を込め
 る。あっという間にわ
 たしの目には涙。


 「説明も、言い訳もい
 い。聞きたくない」
 「なんだよ」
 「そーやってめんどく
 さそうにするならもう
 いい」


 あとからあとから出て
 くるそれを止めようと
 は思わない。泣き出し
 たわたしを見て明らか
 に狼狽した土方くんを
 にらむ。


 「行って」
 「あ?」
 「出てって、一人にし
 て」
 「行けってここ坂田ん
 家だぞ」
 「じゃー坂田くんに頼
 んでいさせてもらう。
 ……とにかく、早く行
 ってよ」


 一緒にいたらもっと揉
 めそう。それに今は土
 方くんを見ていたくな
 い。流れる涙をぐい、
 と手で拭う。


 「…お前置いて行ける
 わけねェだろーが」


 手を引かれてまた土方
 くんの腕の中。胸元を
 押して抵抗するけど男
 の力にはやっぱり敵わ
 ない。


 「離して」
 「離さない」
 「もう止めてってば」
 「止めねェ」


 その温もりにまた泣け
 てきてぐすり、と鼻を
 啜った。こすった目元
 がひりひりと痛んでち
 ょっとだけ眉をよせる
 。


 「…ずっと気にしてた
 のに」
 「おう」
 「なんでどうでもいい
 ことみたいな言い方す
 るの」
 「悪かった」
 「たくさん悩んだのに」
 「ごめんな」


 本当にすまなそうに謝
 るからそれ以上責めら
 れない。バカ、と小さ
 な声で呟くと悪いとも
 う一回。いつもの土方
 くんみたいじゃないと
 笑うとうるせェと抱き
 しめられたまま、体を
 ゆさゆさ揺らされる。


 「好きだよ、土方くん」


 肩口に顔を埋めながら
 そう言うと、俺もと言
 う声が小さく、でも確
 かに聞こえた。



090707


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