ごちゃごちゃ | ナノ
eyes



 銀魂高校のZ組には、目付きに特徴のある3人の人間がいる。

 まず一人目は坂田銀時。死んだ魚のような目をしていて、本人もその目のようにまるで覇気がない。だけどそれなりに人望があり困ったときに頼りにされる。
 二人目は土方十四郎。剣道部を全国へ導いた副部長であり、変わり者の多いこの学校を取り締まる風紀委員でもある。その鋭い目でにらまれたらどんな不良だってかなわない。らしい。
 そして三人目はこのあたし。一重で切れ長の目をしている。その他の情報はとくにない一般人である。

 入学初日に担任からお前らおもしろいな、と何の気なしに目付きについて言われて以来なにかと3人一緒にされることがある。かと言ってあたしはべつに二人と仲が良いわけではなくただのクラスメイトであり、それ以上でも以下でもない。(坂田くんと土方くんはよく喧嘩していてどうやらそれなりに親しいみたいだ)前者二人は問題児ながらもこの学校の人気者といってもいいくらい好かれていて、しかも顔立ちも悪くないわけで他校の女の子からもモテている。
 そんなあたし達が、この前の席替えで偶然にも近くの席になった。

「あ」

 17と書かれた紙のとおりに机を移動させると、隣にはぐでんと寝ている銀髪がいた。あの坂田くんだと思わず声をあげるとそれに反応したようにゆっくり顔をこちらに向ける。

「よろしくー」

「え、あ、こちらこそ」

 ひらひら手を振られて挨拶された。急なことでつい無愛想に答えてしまった。違うそうじゃなくて、ともう一回口を開こうとしたがすでに彼は夢のなかへ旅立っていた。
 さっきなんて思われただろうか。せっかく声をかけてくれたのににこりともせずに返事をしてしまった。次こそうまく笑えるようにこっそり練習してみるが口の端がピクピク痙攣するだけで変化はない。
 はあ、とため息をついていると後ろからがたがた机を動かす音が聞こえた。もうひとりの子が移動してきたのだろうとちょっとした期待を抱きながら軽く振り向いてみる。

「おう」

 誰だろうと軽く顔を確認するだけのつもりだったのに、ばっちり目が合ってしまった。それがあの土方十四郎だったので驚いて会釈のようなものをするだけでまたくるりと前をむいた。
 ………また、やってしまった。

 次こそは、と思っていたのに結局素っ気ない動作だけしか返せなかった。べつに嫌だとかそういうんじゃなくて。ただちょっと驚いて咄嗟の判断ができなかっただけなのに。
 あたしの問題はたぶん一重の目付きだけじゃなく、不器用でうまく立ち回れない性格にあるんだと思う。


 ……どうしよう。教室のど真ん中であたしは盛大に困っていた。
 数学係であるあたしには今日の昼休みまでにノートを集めるという任務があった。のに。

「じゃーね」

「ばいばい」

「あれ、まだ帰らないの?」

「あ、用事があって」

 放課後になってしまった。先帰るね、と手を振る友人たちを見ながら時計を見やる。

 提出していないのはあと数人の生徒だ。前もってあたしが声をかけていれば良かったのだけど、忙しそうだったので結局なにも言えずこんな時間になってしまった。はやく帰りたいな、とすっかり静かになった教室でひたすら待ち続ける。夕日が落ち始めたころ、廊下が急に騒がしくなり教室のドアが開いた。
 あたしと、近くに積まれたノートの山に気づいたひとりが他の仲間にそれを伝える。鞄から引っ張りだされたそれは、同じように重なる。男子生徒とノートを見比べてようやく揃ったと胸をなでおろした瞬間。

「あいつ超怖くね?」

蔑むような声が響く。

「俺もさっき睨まれた」

「ちょっと提出遅れたくらいで怒ってんじゃねーよ」

 男子生徒の指すあいつ、が誰のことだか考える間もなくわかってしまう。さっと指先が冷えてすべての動作が止まる。気にするなと自分自身に言い聞かせても耳は彼らの声を拾ってしまう。

「昼休み俺たちが話してるときも睨んでたぜ」

「うわ、怖!」

 睨んでいたわけじゃない。昼休みにあんた達がどこにいたかだって覚えてないのに。
 いつの間にか視線は下に、教室の床をじっと見つめていた。自分の目がたまらなくイヤだ。もし選べたならあたしだってかわいいぱっちりとした目を選んだ。なりたくてなったわけじゃない。

「うるせえよ」

 突然ガン、と大きな音がしてそろそろ振り向くと坂田くんが机に足をのっけていた。そこでようやく彼が蹴ったときの音だろう、とわかると坂田くんの背後から黒髪がのぞいた。

「提出期限は昼休みだろ。それまでこいつはてめえらを待ってたんだよ」

「あんたらのちょっと遅くなったは5時間後のことを言ってんの?」

 男子生徒を囲むようにふたりが立ちはだかる。身長がある彼らの威圧感は、見ているこっちにも伝わってくるほどだ。
 じり、と後退る男子生徒を追いかけるようにまた一歩踏み出す。

「だいたいあの目が良いんじゃねえか、わかってねーなお前ら」

「ま、わかってんのは俺らだけでいいけどな」

「今日だって席替えン時、声かけたらびっくりした顔して超かわいかった」

「ああ。俺にも小さく頭下げてたぜ」

 くくっと喉を鳴らして土方くんが笑う。あのクールな土方くんの笑顔を見たことはあまりないな、と思うかたわらでだんだん話がおかしな方向に行ってる気がする。

「なんかびくびくしてんだよな」

「たまに変なことしてるし」

「今日ボールペン解体して中に入ってたネジ飛ばしてたぜ」

 坂田くんが嬉々として報告しているのは今日の授業中のあたしの行動だ。そんなとこ見てたのかよ、とあれはただ暇だったからで特に意味はないのだと弁解する気持ちがごちゃごちゃになってアワアワすることしかできない。
 土方くんも俺だって、とわけのわからない張り合いを始めてもう収拾がつかない。壁際に追いこまれた男子生徒も一体なんの話だと言わんばかりに顔を見合わせている。それなのに一向に言い合いは止むことなく、それどころかヒートアップしてるぐらいだ。これは終わらなさそうだと踏んだ男子生徒たちは、あたしに向かって申し訳なさそうに小さく頭を下げてからすごすご教室から出ていってしまった。
 結局ぽつんと残されてしまい、もう誰を頼ることもできない。教室にかけられた時計を見るととうの昔に下校時刻を過ぎている。もうこれは腹をくくるしかない。

「あの!」

「「あ?」」

声を揃えて振り返る顔はなかなか怖い。が、あたしもはやく帰宅したいのでなけなしの勇気をふりしぼる。

「えっ…とありがとう」

 庇ってくれて。
 陰口を言われて恥ずかしさというか居たたまれなさは感じるものの、彼らに対して色々言ってくれたのはありがたかった。

「別にいーって」

「ああ、気にすんな」

 いままで自分たちがなにをしていたのか自覚したらしく、居心地悪そうにもぞもぞしている。坂田くんと土方くんはあたしのいる世界とはまったく別のところにいると思っていたけど、そうでもないのかもしれない。
 普通の、いやそれ以上に優しい男の子だ。

「じゃ、じゃああたし先生にノート提出してくるね」

 大量のノートをよいしょ、と抱えると駆け寄って手伝うと持ってくれた。何から何までありがたい。もごもご礼を言うと、やや食い気味に坂田くんが言葉をつらねる。

「もう暗いし、最近変態も出るって聞くしよォ!だからっその」

「送ってく」

「あ、てめ、土方!!」

「なんだよお前がもたもたしてんのが悪ィんだろ」

「このマヨネーズ王国の味覚バカ王子が。高血圧で死ね」

「お前こそ糖尿病で死ね」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐふたりに、あたしは今日確かに救われた。
 大嫌いなこの目を褒めてくれた。かわいいと言ってくれた。たとえそれがその場しのぎの嘘だとしても、あたしにとってはすごくすごく嬉しかったから。

「あのよ」

「なに?」

 職員室へと向かう廊下で、坂田くんが口を開く。

「あんま気にすんなよ」

「………うん」

「あいつらだって本気じゃねえから」

「……………うん」

 坂田くんに合わせるように土方くんも優しい言葉をくれる。
 いい加減なやつだと言われる坂田くんだって怖いと嫌煙される土方くんだって本当は。

 それからあたし達は目付きの悪い3人組ではなく、仲良し3人組と認定されるのはまた別の話。




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