真選組――江戸の平和を守るもの。
近藤さんを中心に集まったのは血の気の多い男ばかり。そのなかの紅一点がわたしだった。年頃の女の子がファッションやボーイフレンドに入れ込むように、わたしは刀と強さを求めた。後悔はしていない。ただ、どうしようもないことを思いしることはある。
「死ねぇええ!」
複数の攘夷浪士がまわりから一気に攻めこんでくる。頭で考えるよりはやく、体が動いた。
血しぶきと叫び声を浴びながらひたすら腕を、手を動かしていく。動きを止めたらそのときはきっとわたしが死ぬときだ。真っ向から挑むんじゃない。女だから力の差では負けるけど、相手よりはやく動き、不意をつけばなんてことはない。
「ぐあああ!」
汚い叫び声をあげて、ようやく最後のひとりが倒れた。刀を下ろすと、血が刃をつたって地面に赤い染みをつくる。
「…チッ」
ふと見れば腕から血が流れている。おそらくさっきの戦闘でできたものだろう。
あれくらいの人数相手の戦いに傷をつくってしまった自分に対して舌打ちをする。まったく、情けない。
「おい、大丈夫か」
「………副長」
ふっと物陰から出てきたのは土方副長。頬や隊服に、所々返り血がついているのを見るとおそらくついさっきまで戦闘中だったのだろう。
ぺこり、と頭を下げるとなぜか副長の目が鋭く光った。
「…腕、どうした」
見られて、しまった。
いまさら隠すわけにもいかずうなだれる。
「さっきの、戦闘で。……でも動きますし対してそれほどひどくありません」
「……お前は一度屯所に戻れ」
すこしの沈黙のあとにそう告げられて顔を上げた。
「っ、どうしてですか!へまをしたことなら謝ります」
「原田、こいつの代わりに5番隊に合流しろ」
「副長!」
どうして。
思えばいつだってそうだ。稽古のときも手加減されて、この前の攘夷浪士の一斉摘発のときだってわたしは待機組だった。たしかに男にはどうしたって敵わない。強さも素早さも、わたしには足りない。女だということがわたしには大きな重荷になってのしかかる。
「………女だからですか」
「あ?」
「わたしが、女だからいけないんですか」
どんなに努力をしても越えられない壁。認めてほしいと願うほど、すべてが空回りしていく。
せっかくこうして戦う機会を与えられても小さなケガひとつで、やっぱり女だからと言われてしまうのか。
「…お前が人一倍努力しているのはわかってる。それは俺も、近藤さんも、隊のやつらも全員知ってる」
「それじゃあなんでっ!」
「仲間ひとり心配しちゃいけねェのか」
「…え?」
「小さいキズだって放っておけば菌が入って化膿してもっとひどくなる」
「………」
「近くに医療班がいねえからすぐに治療もできねェ。屯所なら道具もあるし、すぐに治療できる」
呆然とするわたしの肩に、土方さんの手が置かれる。
「それが終わったら原田と交代だ」
そして、そのまますっと横を通りすぎた副長になにも言えずにただ立ち尽くす。さっきまで手が置かれていた右肩がいまさら妙に温かく感じる。
「………副長」
「なんだ」
「わたし、もっともっと強くなります!」
「…楽しみにしてる」
副長が笑ったのが空気でわかった。
……大丈夫。わたしはまだ、頑張れる。