「太った…」
夏も終わりに近づいていくなか、わたしは風呂場で絶望していた。久しぶりに体重計にのってみれば見たこともない数値をたたきだしていた。
き、きっとこれはパンツの重さだ。5キロくらいあるんだ。そうに違いない!
さっと服に腕をとおして、その場をあとにする。
思えばこの夏、かなりだらけきっていた気がする。暑いからという理由でアイスを食べまくり、お腹がすいたといってはかき氷を作っていた。夏祭りにいってやきそばやらフランクフルトやら脂っこいものを食べて、久しぶりに実家に帰ってものすごいごちそうを連日だされた。
そっとお腹まわりの肉をつかめばぶよっと弾力がある。二の腕も以前より太くなった気がする。
「どうしよ」
自分のせいだ、わかってる。でも不条理すぎやしないだろうか。太るのはこんなに簡単であっという間にできるのに、やせるにはかなりの時間と食欲から耐える力も必要なんて。
とりあえず明日からは動くように、そして野菜中心とした食生活にしようと心に決めた。
「今日は特別に焼肉だってよ」
「うお、楽しみ」
すれ違う隊士たちからそんな会話が聞こえた。ばたばたと食堂へと向かう群れからはぐれてひっそりため息を吐く。
ダイエットしようって誓ったのに、いきなりこんな障害があるとは…。みんながおいしそうな匂いをさせているなかでわたし一人だけもさもさレタスを食べるなんて、最後まで誘惑に耐え切れるかどうか不安だ。
「メシ食わねェのか」
「……土方さん」
「今日は肉だってよ。よかったな」
「あ、いやわたしはダイエット中なので」
そりゃお肉は大好きだ。でもいまの状態のまま、食べるわけにはいかない。
「ダイエット?」
「はい。昨日体重はかったらすごいことに…。だから当分野菜中心のメニューにしようかと」
「気にしすぎだ」
「へ?」
「お前はすこし太ったほうがいい」
…これは褒めてくれていると受け取ってもいいのかな。お世辞とわかっていながら、やっぱりイケメンの土方さんからそう言われると満更じゃない。
「ほら、ここも」
「ひッ!」
「もうちょっと丸みがあるほうが俺は好みだ。まァ、今のままでも十分さわり心地は良いけどな」
さわさわとおしりを往復する手。もちろんその持ち主はわたしの目の前の人のものである。いつも通り煙草をふかし、ポーカーフェイスを気取っているけど右手はおしりを撫でている。
鳥肌がたっているのがわかるけど、衝撃的すぎて体は硬直したまま。
「?どうした」
顔をのぞきこんできた土方さんを思い切り睨んでからばちーんとその頬に平手をくらわせる。
「この変態!!」
イケメンだなんて一瞬でも思った自分を殴りたい。やっぱり土方さんはただの変態野朗だった。