ごちゃごちゃ | ナノ
君の瞳に俺は写らない


これの続き


不器用だといってみればなんかかっこよく聞こえるが、実際は大したことのないただのガキってことだ。


「沖田サイテー!」
「うるせえブス」


あれからすこし経って、少しずつ大人に近づいているはずなのにあまり変わっていない。
いつも通りあいつにいたずらをしかけ、泣かせる寸前の情けない顔をさせてしまう。べつにそういうつもりじゃねーのに。

がしがし頭を掻いてやるせなさを発散させる。いまムカついているのは自分自身。どうしてこう空回りばかり、気持ちを裏切ることばかりやっちまうのか。
頼りにされたい。優しくしたい。笑ってほしい。そう願ってるのに。


「………くそ」


好き、だ。




「総悟」
「なんでィ」
「今年も行けるだろ?」
「同じ場所でいいんですかィ?」
「ああ」


毎年近所でやる祭りには近藤さんとくそマヨラーと行くことになっている。物心つく前から一種の習慣になっていて、それが自然だった。


「と、トシ!総悟!」


バタバタというかどすどすと突然姿を現せた近藤さんを見る。慌てているより、興奮しているみたいだ。


「どうしたんだよ近藤さん」
「お妙さんが、祭り一緒に行ってくれるって!」


目がキラキラと輝いている。つーか泣いてる。
近藤さんがあの暴力女に入れ込んでいるのは知ってる。そして過剰なアプローチ(またの名をストーカー行為)のたびにぶん殴られていることも。あんなに毛嫌いしている女が素直に近藤さんの誘いに乗るとは思えない。


「近藤さんそれ騙さ」
「よよよかったじゃねェか」
「まァ俺の愛がようやくお妙さんにも届いたんだろうよ!」


すべて言い終える前に口をガッと塞がれた。もがもがと暴れている間に近藤さんはどこかに行ってしまった。


「なにするんでィ」
「近藤さんがあんなに喜んでるのに水さすようなこと言うな」
「…あの女が近藤さんの誘いにホイホイのるようには見えやせんけど」
「俺だってそう思う」


大方近藤さんのささやかな幸せを壊さないようにという配慮なんだろう。まったくとことん甘ェ野郎だ。







「お妙さん浴衣かなあ…」
「知らねーよ。つかあの女が来る前にその締まりのねえ顔どうにかしろよ」


呆れてそう返す土方さんを横目に綿あめにかぶりつく。口端についた甘いそれをぺろりと舐めてふと顔を上げると。


「あ」
「どうした総悟。……お、お妙さん!!」


人混みのなかを歩いてくるのは志村姉と、あいつだった。突然のことに目を奪われてバカみたいにぽかんと口を開ける。


「ごめんなさい、遅れて」
「いいえ!例え何日、何週間遅れても俺は永遠に待ち続けます!!」
「…いやそれもう迎えに行けよ」


そっとツッコむ土方さんの言葉なんて耳をすり抜けていく。志村姉の後ろからひょこりと顔を覗かせたその姿は、浴衣で髪を束ねている。学校では決して見れない姿に呆けてしまう。


「…ごめん、近藤くん。わたしもついてきちゃった」
「人数は多い方が楽しいから。なあトシ、総悟!」
「ああ」
「まァ別にいーけど」


驚きとそれ以外の感情のせいでドキドキする心臓を無視して、なに食わぬ顔で返事をする。
ほっと息を吐く、そんなささいなことでもまた心臓はうるさく騒ぐ。


「浴衣着てみたんだけど、どうかな」
「ああ、似合う」
「…へへ」


照れたように笑う女とそれを見てふわりと微笑む土方。
ゆっくり視線を下ろして、ふたりを視界から追い出す。アスファルトを睨みつけているとふとあいつの履いた赤い鼻緒の下駄が見えた。その足の親指の爪に塗られたピンクのマニキュアがはみ出ていてすこし笑う。そんなちっぽけなオシャレなんて土方の野郎は気づいてないっていうのに。

俺にならわかる、のに


あいつの瞳に俺は写らない。




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