「先輩」
「山崎くん」
委員会の集まりで雑用を押し付けられてしまった。同じクラスの子も用事があるからと先に帰ってしまった(もちろんあとで奢らせる)。
教室にひとり残って片付けをしていると、委員会の後輩である山崎くんがひょこりと顔を出した。
「もう帰ったのかと思った」
「いや帰ろうと思ったんですけど、電気ついてたんで」
言われて外を見れば、薄暗くなっていたことに気づいた。手伝いますよ、と隣に立つ山崎くんにお礼を言う。
「これまとめればいいんですか?」
「うん、終わったらこっちに置いて」
「わかりました」
山崎くんはこういう雑用というか庶務的な仕事が得意なことで有名で、いてくれるとかなり助かる。人数も増えたし、あと数十分で終わるかもしれない
「先輩は彼氏とかいないんですか」
「え、なに急に」
「だってこういう時って恋人が手伝ってくれるもんなんじゃないんですか?」
「……悪かったね、どーせいませんよ」
「へェ」
くすりと笑った山崎くんの顔がなんだか知らない人みたいで、不覚にもときめいてしまった。ちょっとだけ熱くなった頬に気づかないフリをして手を動かす。
「そ、そーいう山崎くんはいないわけ?カワイイ女の子とかさ」
「…いますよ」
「えっ!」
「そんなに意外ですか?」
「てっきり同類だと思ってたから。…あーあ置いていかれた」
むっとすれば、また山崎くんが笑う。
ちらりとそれを盗み見てまた胸がきゅうんとなるのを感じた。地味だなんだと言われているけど、十分かっこいいと思う。あくまで一般論として、だけど
「まあ付き合ってはないんですけど」
「…好きな人ってこと?」
「はい」
「どっちにしてもわたしより上をいってることに変わりないって。だって好きな人さえいないし」
「……それは良いこと聴きました」
「?なんか言った」
「いえ」
そうやって世間話をしているうちに、作業もすべて終わった。ふう、と安堵のため息を吐く
「ありがとね、助かった」
「タダじゃないですよ」
「えっ!?」
「そんな良い人間じゃないですよ、俺」
今お金ないんだけど、と呟くわたしを見て目元を和らげる。
「大丈夫です、先輩ですから」
「え?」
「だから、俺の欲しいものは先輩ですよ」
「や、山崎くん…?」
ゆっくり距離を縮められてそれに比例するように後ずさる。ガタっと音がして、後ろを振り向くと壁に追い込まれていた。
「好きな人がいるって言いましたよね?」
「…っ」
ひゅうっと喉が鳴る。
これ以上聞いたらきっと戻れなくなる。
「俺と、イイコトしようか」
頬に寄せられたひやりとした手のひらの温度に、あきらめたように目を閉じた。