ごちゃごちゃ | ナノ
土方に褒められる


「も、しつこっ!」

昨日買ったばっかりの着物を着て久しぶりの休暇でるんるん街を歩いているところに、仕事用のケータイが震えた。その時点でいやな予感がして、無視しようにもそのあとが怖くてしぶしぶ出る。やっぱり相手は沖田隊長で、突然仕事を言い渡された。
山崎先輩同様、監察は虐げられる傾向があるらしい。その任務というのが攘夷浪士たちによる会談に忍び込んでくるというもの。しかもその浪士たちは今鬼兵隊の傘下にある力をつけはじめたやつら。えええ!という叫び声は通話終了を告げる電子音に消えた。

「待てェェ!」
「逃がすねァ、追え!!」

そうしてこの結果だ。警備が薄いからという沖田隊長を信じて行けば、強面・屈強の男たちがずらりと並んでいた。それでもどうにか手に入れた情報を持っていざ逃げようとしたとき、気配でばれてしまった。そういうわけでこうして追われている。
新品の着物はどろだらけ、せっかくの休暇はまるつぶれ、見つかったら殺される。なんだこの状況。わたしなんかしましたか神様

「(生きて帰ったら絶対あのドSに復讐してやる…!)」

うしろから聞こえるたくさんの足音にまた眩暈がした。



「はぁ…はぁ…死ぬ、やばい」

げほげほ咳をしながら屯所のどまんなかでバタリと倒れた。途中草むらや川の中をばしゃばしゃ走ったりしたせいで足元はぐっしょり濡れて小さい傷ができてる。
体はぐったり疲れてるし、足はもう棒みたいでこれ以上動かない。このままここで寝てもいいかなと目を閉じた瞬間、頭上から声をかけられた。

「おい」
「…・・・このまま寝かせてください」
「くだらねェこと言ってねえでさっさと起き上がれ」
「…くだらない?」

ぶつんとなにかが切れる音がする

「今日は3ヶ月ぶりにもらった休暇だっていうのにいきなり沖田隊長に任務で呼び出されて、せっかく買った新しい着物も着替えられないまま泥だらけになって傷まで作ってようやく屯所についてもうくったくたなのに副長はくだらないって言っちゃうんですかそうですか」
「お、おい落ち着け」
「いっつも沖田隊長にむちゃくちゃ言われて徹夜3日連続とか当たり前なのにはやく始末書かけとか言われて、しかも隊長のものまで押し付けられたり…」

もっと言いたいことはある。でも頭に置かれた副長の手のせいで、それ以上言葉を続けることはできなかった。

「お前が努力してんのはみんな知ってる。年頃の女にはつらい仕事なのに文句言わずにこなしてるのはわかってる」

言いながらぽんぽんと数回頭をなでられて、思わず泣きそうになった。あんな厳しい副長がこんなに優しいとか反則でしょ。ぐっと唇を噛んでなんとか涙をひっこめる。

「よく、頑張った」
「うう」

もう、ダメだ。抑えられなくなってぶわあと涙があふれた。決してうなっているわけじゃない。

「ふ、ふくちょうう」
「…なんだ」
「ありがとうございますうう」
「……明日から一週間の休暇やるからゆっくり休め。今日は俺が焼肉おごってやる」
「い、」
「い?」
「一生ついていきます!」

嬉しくねーよ、と笑った副長がなんでかものすごくかっこよく見えた。





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