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学生高杉と腐れ縁 2


恋心というものを自覚したのは小学生のとき。あの頃から晋助とよくつるんで一緒に下らない悪さをして遊んでいた。

「入れてー」

公園の砂場で遊んでいると、キャイキャイと黄色い声を上げながら女の子の集団がやって来てわたしと晋助の世界を壊した。むうと眉をひそめるわたしに気づかないのか、晋助は勝手にしろと言ってもくもくと砂をいじっていた。
いつもなら来んな、と拒否するはずなのに。了解を得た女の子たちはたちまち晋助の周りを陣取り、砂には目もくれずにどうにか晋助の気を引こうとしていた。ひとりぽつんと残されたわたしは作りかけの砂のお城をぐしゃぐしゃと壊してスカートについた砂を払う。女の子たちや晋助は気づかないうちにその場を去った。

家路へつきながらイライラした気持ちを抱えて晋助の悪口や女の子に対する悪口を頭の中に並べていた。なんで女の子誘っちゃうんだよ晋助のばーか。モテてるからって調子のんな。今はわたしと遊んでるのに。そんな風に考えていると、今日の休み時間に友達が話していた「やきもち」という感情によく似ていることに気づいた。



名前をつけて呼んでみればすとんと自然に受け入れることができた。小学生というまだ純粋だったころは腐れ縁とかそういう面倒くさいものを気にせず、ただ晋助が好きだという事実だけでよかった。


「はぁ」

口を開けばため息ばかり。わたしの視線の先には晋助と河合さんが仲良さげに話をしている。
晋助がなにを言わんとしているのかわからないフリをするにはもう大人になりすぎていた。そりゃあ口にすれば一瞬で終わってしまうけど、拒否された場合や今まで積み上げてきた腐れ縁という位置にいるわたしたちのことを考えれば、やっぱり踏みとどまってしまう。 何度目かのため息を吐いたとき、肩を数回ぽんぽんと叩かれた。

「高杉くんの知り合い、ですよね?」

振り向けばふわふわの髪の毛をしたかわいらしい女の子が立っていた。名前もクラスも知らないその子を見ながら頷くと目の前にピンク色のものを差し出された。

「手紙…?」
「高杉くんに渡してほしいんです」

おそらくそれはラブレターなのだろう。今どき古風な、と思いながらも連絡先も知らない・声をかける勇気もないというそれらしい理由を考えれば一番良い方法なのかもしれない。 ぼうっとそんなことを考えていると、渋っていると勘違いされたのかお願いしますと頭を下げられた。

「だ、大丈夫!ちゃんと渡すから」

ああ、わたしの馬鹿野郎。それでも女の子が幸せそうに笑うからよかったと思ってしまう。




放課後、下駄箱で晋助を待っていると案の定河合さんと一緒に出てきた。

「晋助」

わたしの姿を発見した途端河合さんの眉間に皺がよったことは無視しておこう。彼女の前で渡すのも気が引けるけど、この際仕方ない。

「これ」
「なんだこれ」
「…たぶんラブレターだと思う」

ピンク色の手紙を晋助の手に押しつけるようにして手渡す。ヂクヂクと痛む胸を無視して笑顔をつくりながら言葉を続けた。

「今日女の子に頼まれたの。晋助に渡してほしいって」
「…」
「それだけ。じゃあね」
「待て」

グイッ、と腕を引かれて踏み出した足が止まる。なに?と問うとなぜだか不機嫌になった晋助に睨まれた。

「お前、本当馬鹿だな」
「はァ!?」

なにを言い出すのかと思えば。離してよ!と腕をぶんぶん振るともっと強い力で握られる。

「好きなんだろ、俺が」
「!」
「こっちが待ってりゃいつか言うだろうと思えば、いつまでもうじうじしやがって」
「…なんで知って、」
「腐れ縁ナメんな」

知って、たの。絶対にバレないように奥底に閉じこめていたこの気持ちを。晋助が彼女とふたりでいるのを見るたびに痛むこの想いを。知りながら他の子と一緒にいたの。

「っふざけないで!」
「…」
「わたしがどんな気持ちで今まで悩んで苦しんでたのかわかる?」

思いきり掴まれた腕を振り払い、滲み出した視界から晋助を睨みつけるように見る。 ずっと苦しかった。ぽつりとそう残して背を向けた。

「…じゃあお前にはわかんのか」
「なに、」
「腐れ縁とか幼なじみっていうつまんねェ関係に怯えてる女を何十年も見てきた俺の気持ちが。」

そりゃ少しくらい仕返ししてえって思うだろーが。怒りを含んだその声にただ呆然とする。 何十年も見てきたってどういうこと。

「気づけバーカ」

べしっと頭をはたかれて潤んでいた目からぽろりと水滴が落ちた。
そんなのわかんないよ、言葉にしてよ。じゃあぐるぐる悩んでいたのは無駄だったのかそうなのか。そんな風に考えても晋助に対するイライラとかそんな感情は少しもなくて。ただ、嬉しかった

「しん、すけぇ」
「あ?」
「好きだばかやろー」
「……知ってる」

ぐずぐず泣きながら、いつの間にか河合さんがいなくなっていることに気づいた。なんかごめんなさい、と心の中で謝って目の前にいる隻眼の男の胸に思いきりダイブした。



つまりはお互い様




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