ごちゃごちゃ | ナノ
保険医な高杉


久しぶりに会った同級生は白衣を着ていた。



「ちょ、銀時見て見て!高杉が白衣着てんだけど」
「携帯どこいったっけ」
「俺のがここにあるぞ」
「小太郎ナイス!じゃー、辰馬撮って」
「みんなもっと寄らんと入らんぜよ」
「銀時の頭であたしの顔隠れる」
「ふざけんなコルァ!そんなくるくるしてねーぞ」
「銀時、言い訳は見苦しいぞ」
「てめえは黙ってろヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」


「……お前ら、何やってんだ」




高校で銀時・高杉・辰馬・小太郎に出会って、それからずっと5人でばか騒ぎしてきた。大学はバラバラになったものの、連絡はちゃんととりあっていたし週一で呑みにも行っていた。
そしてこの前。銀時からの久しぶりの連絡で衝撃的な事実を知ったのだ。高杉があたしたちの母校・銀魂高校で保険医をやっている、と。

え、嘘でしょ?だってあんな鬼太郎が先生なんてやるわけない。そりゃ5人の中で一番頭が良かったのはあいつだったけど。半信半疑でとりあえず行ってみよう、とこうして来てみたら。


「高杉が先生やってるって聞いてこれは見に行かなきゃと思って」
「まあぶっちゃけ冷やかしだな」
「あっはっは、高杉はよく白衣が似合っとる」
「うん、カッコいいよ」
「俺だって着たらやばいよ?女子高生なんてイチコロよ?」


ごそごそと自分の鞄から携帯を取り出して高杉に向けて数枚写真を撮る。何してんだ、と高杉に睨まれたけど気にしない。まあまあキレイに撮れた、とひとりでにまにましていると銀時に横から覗きこまれた。


「お前って昔から高杉大好きだよなー」
「は、なに言って」
「高杉の保険医姿見に行こうって言い出したの、お前だし」
「うううるさい、小太郎!」
「あっはっは、照れとるのー」


笑いながらあたしの頭をあやすように撫でる辰馬にイラッとして握りこぶしをおみまいしてやる。それでもまだ笑っているので放っておいた。


「へェー」


ニヤリといやらしい笑みを浮かべてこちらを見ている高杉を負けじと睨みかえす。おーい、顔赤くなってんぞと叫ぶ銀髪は無視。


「べ、別に高杉なんか見に来たわけじゃないから。先生とか久しぶりに会いたいなーって思っただけだから」
「ふーん」
「あー、アホくせ。こんな奴ら置いてこうぜ」
「そうだな、俺たちがいると邪魔になってしまう」
「先に飲み屋に行ってるぜよ」


手をひらひらと振って3人は行ってしまった。
少しの沈黙のあと、入れよと保健室のドアを開けてくれたのでそろそろと足を踏み入れる。


「……なつかしー」
「なんか飲むか?」
「じゃあコーヒーお願い」


高杉がコーヒーを入れている間にぐるぐると保健室を歩きまわる。保健だよりや、喫煙防ポスターなど高杉には似ても似つかないものが辺りにあった。コトン、とテーブルにカップが置かれる音がしてありがとうと手を伸ばした。


「…お前、今何やってんだ」
「フツーの会社員だよ。OLやってる」
「そーか」
「うん」


ズズッとコーヒーを啜る音が室内に響く。昔はコーヒーなんて飲めなかったのに。銀時なんてあれは人間が飲むもんじゃねェとまで豪語していたのに、今では一番に飲む物といったらコーヒーかビールくらいだ。
大人になったなあ、とカップをくるくる回しながら実感する。


「高杉は、」
「…」
「高杉は楽しい?」


大人になりたくなかった。ずっと5人一緒にいれる、と思っていた。
大人になったらOLなんかになりたくなかった。普通の人生を歩むなんてごめんだった。

社会人になってから初めて銀時・小太郎・辰馬に会ったとき、すごく驚いた。当時なりたくなかった大人になっていた。明日会議があるんだ、とかプレゼンやらなきゃいけねー、とか。あたし一人だけが置いていかれた気がした。楽しかったあの頃はもう過去になっていて、思い出にすがっているのはあたしだけ。


「まあ、楽しいな」


いつもはクールぶっている高杉の目がふっと柔らかくなる。やっぱり高杉も。
俯いて汚れた床をじっと眺める。もう、高杉にとってあれは思い出なんだね。


「でも、」

「5人でばか騒ぎしてたころの方がずっとおもしれェ」


いたずらっぽく笑ってあたしの手を取る。さっさと行かねーとめんどくさいことになんぞ。白衣を椅子にかけながら時計を見てぎゅっと手を握られる。ぼっと顔が赤くなったあたしをくつくつと笑って顔を近づけてきた。抵抗する間もなく、唇になにか柔らかい感触がする。


「バーカ」


そう言って笑う高杉はあの頃とすこしも変わっていなかった。




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