ごちゃごちゃ | ナノ
野獣パー子ちゃん


土方さんがオカマバーで働いているらしい


それは真選組で女中をしているとき、耳にした噂だ。いつも土方さんに怒鳴られているわたしは、いつもの腹いせに土方さんの人生で最も屈辱的な姿を拝んでやろう、ときらびやかなネオンの街にいる。
おそらく仕事なのだろうけど、あのプライドの高い土方さんが女装なんて。考えただけでも笑える。

ぎらぎらと妖しく光る店のドアを開けて、足を踏み入れた。いらっしゃいませー、と野太い声がわたしを迎える。


「お一人様で、すか…」
「ぎぎぎ銀さん!?」


なんと驚くべきことにわたしの恋人でもある坂田銀時がツインテールのかわいい女の子になっていた。赤い口紅やバチバチのマスカラ。あのまるでダメなおっさん、マダオな銀さんが。


「ぶふっっ!」
「てめ、笑うなゴラァ!」
「だって銀さんが、あの銀さんが女装だって…!」


腹を抱えて大爆笑していると、頭を叩かれた。ヒーヒー言いながら涙を拭っていたら、さっさと帰れと背中を押された。


「すいませーん、この人客に暴力振るったあげくに店から追い出そうとするんですけどォー」
「ちょ、お前黙れ!」
「パー子ォ、どういうこと?」
「げっ」


銀さんはそのまま顎の割れたオカマに、店の奥へと連れていかれた。さあ邪魔者もいなくなったし、ゆっくり土方さんを探すか。
ド派手な色のソファーに腰かけて、ぐるりと店内を見渡した。すると黒っぽい着物に身を包んだ人が目の前を横切る。


「ちょっと待った!」


急いで着物の裾を掴んで、その人を停止させた。眉間に皺を寄せながらゆっくりとこちらを見た人は、やっぱり土方さんだった。


「なっ、お前…!」
「お似合いですね、その着物」


にんまりと笑うと、土方さんの眉がピクリと動いた。
離せ!と抵抗する土方さんをまあまあ、と抑え込んでお酌するように頼む。心の底から嫌な顔をしながらお酒をついでくれた。普段自分より上の立場にいる人をこうやって顎で使えるなんて幸せだ。


「お前、明日覚悟してろよ」
「すんませーん、この店員が客のこと…ふがっ」
「頼むから黙れ!」


怯えたように店の奥を見る土方さん。このオカマバーになにか魔物でもいるんだろうか。
ずいっとグラスを持った右手を差し出し、二度目のお酌を要求する。土方さんがしぶしぶ焼酎瓶を傾けて、透明な液体を注ぐ。それを喉を鳴らして一気に飲んだ。人についでもらったお酒は格別に美味しい。


「ちょっとォ、何してんのよマヨ子」
「万事屋」


不機嫌そうな声が聞こえた方を見ると、銀さんもといパー子が仁王立ちしていた。


「指名入ってんぞ、さっさと行け」
「言われなくても行くっつの」


チッ、と大きな舌打ちを残して土方さんは行ってしまった。それと入れ替わりにどすんとわたしの隣に銀さんが座った。
隣から感じるオーラは不穏なもので、黙ってグラスに残った少量のお酒をちびりちびりと呑んだ。


「…何話してたんだよ」


口を尖らせながらぼそりと銀さんが呟く。気まずい雰囲気を感じながら空になったグラスを撫でる。


「別に、大したことじゃないよ」
「…ふーん」


ぶすっとした相槌をうち、また沈黙。むちゃくちゃ不機嫌じゃん。銀さんが怒っている理由はだいたい分かるけど、それでも今まで美味しくお酒を呑んでいたわたしは一気に塞ぎこむ。小さくため息を吐いた瞬間、また銀さんが口を開いた。


「何でこんなとこいたんだよ」
「え、っと…」


土方さんを見に来たなんて言ったら殺される!適当に濁せばよかったのに、口ごもってしまった瞬間銀さんの死んだ魚の目がキラリと光った。


「吐け」
(ヒィィィィ!)


じわりじわり、と近づいてきて気づくと後ろは壁。逃げ場は完全になくなってしまったようだ。


「おい」


いつもの死んだ魚の目はどこへやら、赤い目がぎらぎらと妖しげな光を放っている。


「仕事場で土方さんが女装してるって聞いて、からかうつもりで来たの」


ぼそぼそと呟くようにそう言うと、すっと銀さんの体が離れた。良かった、わかってくれたんだ。ほっと息を吐いてはりつめていた気を抜く。


「…つーことはお前がここにいるのは多串くん目当てだっていうことだな」
「へ?」


顔をあげるとドエスモードを発動させた銀さんの笑顔があった。


「いや、あの」
「悪ィけど俺先にあがるわ、アゴ美」
「ちょっとパー子!」
「じゃーお先」


銀さんが立つと同時に腕を引かれてあたしも立ち上がる。そのまま手を繋がれて店を出る。待って、と何度言っても止まってくれなくてずんずん夜の歌舞伎町を歩いていく。


「お前にはたーっぷりお仕置きしないとなァ」


ぺろりと唇を舐めてそう呟いた銀さんの言葉をわたしが聞き逃すはずがない。それだけは止めてくれ!と満身創痍で抵抗する。そんなわたしの手をさらに強い力で押さえつけながら最後に痛烈な一言を放ったのだ。


「そんなうるさい子にはSMプレイ朝までみっちりコースだな」


黒い笑顔を向ける銀髪から逃げることはできない、とようやく悟ったが時すでに遅く。目の前にはピンク色のホテルがそびえ建っていた。



 姫、狼になる


title 菖蒲

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