ごちゃごちゃ | ナノ
リーマン土方


カウンターにぐたりと寝そべり、ぼうっとグラスを見つめる。今日は疲れた。上司にはこき使われ、部下は言うことを聞かず。やっと残業を終えていつものバーにやって来た。
そうしてまたひとつため息を落とす。


「一人か?」


声のした方をゆっくり見ると、同期の土方が立っていた。のろのろとだらしない姿勢を正してお疲れー、と手を上げる。


「ずいぶんやつれてるな」
「そりゃそうよ。あのハゲ無茶苦茶言いやがって」


ぶすり、とむくれながらグラスに口をつける。そんな様子を見ながらくつくつと笑って椅子に座る土方。わたしの隣には鞄があり、その隣に腰をおろした。ウイスキーひとつ、と低い声が聞こえて横目で土方を見る。


「そんな強いの呑んでいいの?あんた絶対酔いやすいんだからもっと度数落としたら」
「明日休みなんだからいいだろ。それに、久しぶりに呑みたいんだ」


せっかくの忠告に耳を貸さないようだ。以前一緒に呑んだとき、こいつはひどく酔って引きずりながらもわたしの家に連れて帰ったことがある。ロマンチックなことが起きるはずもなく、吐くわ吐くわで大変だった。
もう面倒見ないからね、と強気な口調で言うとわかってるよと小さな声で呟いた。


この土方十四郎という男とは付き合いが長い。高校、大学と一緒になりそして同じ会社に入社した。付き合ってるの?と何度となく聞かれたが、いつも声を揃えてありえないと答えていた。それでもこうしてつるんでいるのだから不思議なものだ。
恋人というほど一緒にいないし、友達というほど関係は浅くない。まさに友達以上恋人未満というやつだ。



「やばい、眠くなってきた」
「そのまま置いてくぞ」
「十四郎ったら、ひどーい。変な男に連れてかれたらどうすんのよ」
「誰もお前みたいなまな板誘わねェよ」
「死ね!」


グーで土方の肩を思いきり殴ると、お返しに頭を叩かれた。かなり強い力でいってええ!と頭を抱える。


「明日、あんたのデスクマヨネーズだらけにしてやる」
「そりゃ大歓迎だ。楽しみにしてる」
「はっはーん、マヨネーズの隠し場所総悟くんにばらしてもいいのよ?」
「!…お前、なんで」
「今日見つけた」


総悟くんからのひどいイタズラから逃れようと、大量のマヨネーズをお茶汲み室の冷蔵庫に入れていた姿を、今日発見したのだ。にやりと笑うとチッと舌打ちをしてウイスキーを思いきり呑んでいる。この勝負、わたしが勝ったらしい。
カラン、と氷の音がした。どうやら飲み終わったらしい。赤くなった顔でぼうっとしている。

土方が彼氏かあ……。唐突に昼間友達に言われた言葉を思い出す。


『土方さんとあんた付き合っちゃいなよ』


付き合ってるんでしょ?とおなじみの質問をのらりくらりとかわしていたら、突然友達が言い出した言葉だ。それいいじゃん!告白しなよ!と周りが盛り上がりはじめ、ついには告れコールまで始まってしまった。

今まで土方をそういう対象で見れなかった。顔は良いし、仕事だってできるのに。ずっとつるんできて、良いところも悪いところも見てきた。それでも一向に恋愛には発展しない。たぶんこれからもこのままなんだろう、と思う。
グラスに残った酒をぐい、と飲みほして土方の肩を叩く。


「ほら、行くよ」
「おう」


眠たそうにとろん、とした土方の目を見て笑う。負けじと土方もわたしの赤くなった顔を笑う。
バカみたいに二人で笑って店を出る。この曖昧な関係が今ちょうどいい。例えるなら、そう、



椅子ひとつ分の距離
そのくらいでいい




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