仕事から帰って来ると、血にまみれた銀髪があたしの家の前に倒れていた。まぎれもなくこいつはあたしの恋人なのだけど、こんなに血まみれになっているなんて予想外だ。揺り動かすと小さくうめき声を上げ、生きていることが分かる。重い体を引きずるようにして家に入れた。
玄関から部屋まで血の道ができてしまい、くらりと気が遠くなる。せっかく掃除したのに。とりあえず銀さんの着流しを脱がせて傷の様子を確かめる。刀に斬られたような傷痕が痛々しい。包帯でぐるぐる巻きにして応急処置。廊下や玄関の掃除、着流しの洗濯をして少し休憩をする。
パフェ食いたいとたまに寝言を言う銀さんを見てため息が落ちる。どんだけ人を心配させれば気が済むんだ、こいつは。ふらりとどこかへ行ったと思うと傷だらけで帰ってきて。そして目が覚めたらあたしには何にも言わずにまたどこかに行ってしまうんだろう。
「…ん、ここどこ?」
「起きたか天パ」
「第一声がそれ!?つーか手当てしてくれたんだな、ありがとよ」
にやりと決してかっこよくはない笑みを見て、安心する。ああ、いつもの銀さんだ。
「ってアレ?なんでお前泣いてんの?」
頬を伝う冷たいそれは止まらずに次から次へ溢れてくる。いつの間にか声をあげて泣き出していた。
「……俺、なんかした?」
「もう、別れよ」
「は!?」
「もう嫌だ、こんなの」
「ちょ、待てって!急にどうした」
傷だらけで、血まみれになった銀さんを見たあたしの気持ちが分かる?こうやって今にも死にそうな体を必死になって手当てしてるあたしの想いが分かる?
もう、一人で心配したり泣いたりするのは嫌だ。遺されるのも嫌だ。
「なァ、」
「出てけ話しかけんなこっち見んな」
「ごめん」
「………」
「心配かけて、ごめん」
たった一言で許してしまうあたしは大馬鹿野郎だ。銀さんの腕の中にいるだけで幸せを感じるあたしは阿呆だ。涙はさっきより勢いを増して、当分は止みそうにない。銀さんの広い背中にすがるように手を伸ばした。
「…バカ」
「ごめん」
「糖尿、天パ、箪笥に小指ぶつけろ」
「おい、そろそろ銀さんも泣くぞ?号泣すっぞ?」
「もう怪我すんな」
「……努力します」
ただ、目の前の銀髪とこうして一緒にいれるあたしは世界一の幸せ者だ。
誰かを愛さないなんて絶対に無理だから、僕達は誰かを愛して、純粋な毎日を過ごしてるのだと思います。
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