くるくる回るコーヒーをぼうっと眺める。あと数分したらやって来るだろう
カランカランと音がして、追いかけるように店員のいらっしゃいませが聞こえた。顔を上げれば、あっちこっちに跳ねている銀髪が見えた。
「久しぶり」
「おー、悪ィな」
「いや、暇だったし」
いつも通りパフェと紅茶を頼んで、ようやく落ち着く。
「1ヶ月ぶりくらい?久しぶりだねえ」
「ん。そういやバイト辞めたんだって?」
「げ、それ誰に聞いたの」
「沖田が言ってた。なんか店長とガチで喧嘩した、とか」
にやにやとイヤな笑いをこぼす目の前の男の足をぎゅっと踏んでやる。てめっ!と睨まれても知らん顔でコーヒーをすする。
「別にいいでしょ。バイトしないで家賃滞納してるどっかの誰かさんよりマシ」
「だ、大学が忙しいんだよ。バイトなんかする暇…」
「ろくに講義出ないでパチンコと合コン三昧のくせに?」
「土方くんが言ってた。この前偶然会ったときにね」
「あんのクソマヨラー!」
ざまあみろ、とせせら笑っているとちょうどさっき坂田が頼んだ甘ったるいパフェと紅茶が運ばれてきた。キラキラと目を光らせる坂田にわずかに高鳴る心臓に知らないフリをする。
「で、話ってなに?」
だいたい予想できてるけど。心の奥底でため息を吐いてホントはそんな話聞きたくないけど、とこぼす。
「よくぞ聞いてくれたな!俺のかわゆいマイハニーのことなんだけどよォ」
「ハイハイ。…で喧嘩してたんじゃなかったっけ?」
「それはジェラシーってやつだよ。妬いてくれたんだぜ」
かわいいかわいいを繰り返す坂田。それに比例するように心は音をたててきしんでいく。
うまく、笑えているだろうか。ひきつらないように顔の筋肉を動かして笑みをつくる。
「それじゃあ、仲直りしたんだね」
「ったりめーよ!」
あーあ、残念
そうやって言えたらいいのに。
坂田が今の彼女と付き合うずっと前から好きだった。そばにいたし、坂田の好きなものも嫌いなものも挙げられる。だけど長い年月想うだけじゃダメなんだ
「のろけも大概にしてよ」
「お前も男作りゃいいじゃん。そしたら俺が聞いてやるよ」
作れないよ。だってあんたが好きなんだもん
はがゆい気持ちと、痛みだけが確実に蓄積されていく。坂田と一緒にいれば幸せになれるけど同時に不幸せにもなる。世界征服とか、億万長者とか、そんなことを望んでるんじゃない。たったひとりの人に好かれたいだけなのに、どうしてこんなにも難しいんだろう。一生かかったって叶わない気がする
「それで、この前あいつがな」
どうして目の前のこの男じゃなければいけないんだろう。自分に問うてみても答えなんて出るはずがないけど、わたしはそう考えずにはいられない。
おなかいっぱい、
ごちそうさま
もう、こんなつらい想いものろけ話もいらないのに