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君に届く言葉であれ



久しぶりに友達から届いたのは結婚式の招待状だった。久しぶりー、と元気そうな文字を見て思わず笑みがこぼれる。
高校時代、野球部の○○くんがかっこいいだとか図書委員の○○くんが優しかったとミーハーなあの子とは似ても似つかない。


「会いたいなあ…」


そうこぼしたのは、もちろんこの子に向けたものでもあるけど。そっと目を閉じれば黒髪と鋭い眼孔を思い出す。

同じ高校で、ほんのすこし前まで付き合っていた人。大学進学とともに別れてしまったけれど、実を言えば今でも気になっていたりする。
噂で聞いた話によると、向こうもわたしを気にしてるらしい。友達の結婚式を機に元サヤ、なんて。想像ばかりが先走ってしまう







「おめでとう!」

「来てくれたんだ、ありがとう」


連絡をとり続けていた高校の友達と一緒に花嫁が待機しているという部屋を訪ねた。昔の面影はあるものの、顔つきはもうすっかり大人のそれだ。


「旦那さん、たっぷり見せてね」

「あとでイヤでも見れるから」

「ふふ、それじゃあまた」

「うん」


式場の人にそろそろ、と促されて話もそこそこに部屋を出る。キレイだったねー、なんてわいわい話していると友達の足がぴたりと止まった。


「どしたの?」

「あー、わたし先行ってるね」

「え、ちょっと!」


止める間もなく、ぱたぱたと行ってしまった。
なんなのよ、とため息を吐いて前を見ると見知った顔。でも、あれからかなり男っぽくなってる。


「………トシ」

「よお」


会いたかった人
ぎこちなく手を挙げれば、あっちもがしがし髪の毛をかきながら近づいてくる。


「久しぶりだね」

「ああ」


たぶん友達は気を使ってくれたんだろう。その親切に甘えてそれとなく話を続ける。


「まだ東京?」

「ああ、仕事見つかってな。そっちは?」

「わたしも東京だけど地元から通ってる。でももうすぐ一人暮らしかも」

「へェ……危ないから気をつけろよ」

「う、ん」


そんなことを言われるなんて…すごく、意外だ。
トシにしたら社交辞令程度なんだろうけどわたしからしたら心臓を揺さぶられるくらい衝撃的。


「…なんか、トシ変わった?」

「そうか?……あ」

「なに、心当たりでもあるの?」


トシにしては間の抜けた声だと笑っていると、照れたようなそれでいて嬉しそうなトシがわたしを見つめる。


「俺、結婚すんだ」

「……………え」

「まだみんなに言ってねェからお前が初めてだ」


落ち着かないようにタバコに火を点ける。


「式、は……?」


うまく、声が出なくて掠れてしまう。きちんと伝わっただろうか。


「春ぐらいになると思う」

「………そう」


馬鹿みたいだ
ひとりで盛り上がって元サヤとか勝手に考えて。トシにとってわたしはもう過去の女で、想いなんて欠片も残ってやしないのに。

さっきまでのふわふわした気持ちが今じゃ鉛みたく重い。


「どうかしたか?」

「ううん、大丈夫。それよりそろそろ戻ろう、始まっちゃうよ」

「ああ」


隣を歩く足取りさえも重い。わたしは、本当に、馬鹿だ。


「ね、トシ」

「あ?」

「いま、幸せ?」

「………なんだ急に」

「幸せ?」

「……ああ」


見たこともないような顔でやわらかく笑うから、もうなにも言えなくなる。
わたしにはわたしの、トシにはトシの人生があってたぶんこの先交じることはないのだと直感的に思い知る。それなら、いっそ、


「結婚おめでとう」

「ありがとう」



君に届く言葉であれ


どうかあなたの未来が輝きますように




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