ごちゃごちゃ | ナノ
ロンリーベイビー



流れ星は願いを叶えてくれるものだって聞いたから。だから2人で願ったのだ。『時が止まりますように』と



目が覚めたらなにもかもが止まっていた。目覚まし時計も冷蔵庫も信号機もお母さんも近所の犬も。動いていたのはわたしと、総悟だけだった。

「そーご」
「なんでィ」
「ホントに叶っちゃったね」

まだ小学生であるわたしと総悟のささやかな願いは空のお星さまに届いたらしい。ぎゅっと手を繋いで、アスファルトを駆ける。

わたしたち、自由だ


「おいしー!」
「それ、半分こな」

とりあえずお腹の空いたわたしたちは近くのコンビニで菓子パンやお菓子を食べた。体に悪いから、と買ってもらえなかったものを好きなように好きな分だけ食べてお腹を膨らませた。

「つぎはどこ行く?」
「公園」

にやりと笑って力の限り走っていく。風が、気持ちいい。



いつもなら上級生に独占されているブランコも、ジャングルジムも今は自由に思いきり遊べる。大きな声で騒いだって注意しにくる怖いおじいさんだっていない。わー!ととりあえず叫んでふたりしてゲラゲラ笑いこける。

「お星さますごいね!時間だって人だって止まってるよ」
「これならどんだけイタズラしたっていいや」
「それに、引っ越さなくていいし」

そうだ、わたしと総悟がお星さまにお願いしたのはちゃんとした理由がある。
総悟のおとうさんの都合で遠くに引っ越してしまうことになってしまった。だから離れていかないようにって、こっそりと家から出て一緒にお願いした。

「これならずっと一緒だね」「…」
「総悟?」
「ほんとに」
「なに?」
「本当にこれでいいのかな」
「……ど、して?なんでそんなこと言うの」

せっかく叶ったんだよ
もう別れなくてもいいんだよ


「ずっとこのままって良いことなのか」
「そーご」
「俺はでかくなりたい。でかくなって姉さんを守りたい。お前ェだってやりたいこと、あんだろ?」
「…でも大きくなったら総悟と会えなくなるよ」
「このままだって、いつか離れなきゃなんねェときはくる」

睨み付けるのとは違うけど力強い瞳にひるんでしまう。……そんなこと、ほんとうはわかっていたよわたしだって。時間が止まったって、なにをしたってわたしと総悟は離れなきゃならなくなる。そういう日はいつか絶対どうしたって来てしまう。


保健体育で習った。
男の人と女の人の体は違うんだって。子どもがどうやってできるのか。

クラスの子に言われた。
どうしていつも総悟と一緒にいるの?って。男子と女子が一緒にいるのはおかしいことらしい。

隣のおうちのお兄さんに聞いた。
しんろっていうのがあって友達とバラバラになっちゃうんだって。でも、どうにもできないんだって。


「総悟」
「…」
「おうち、帰ろう」

きっと明日になればなにもかもいつもみたいに戻るはずだ。うまく言えないけどそんなかんじがする。
そっと手を繋いで一歩踏み出す。

じゃあお星さま
できるだけ時間がゆっくり進みますように。今度は総悟に言わないでこっそり心のなかでお願いした。



ロンリーベイビー




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