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明日の匂いがする

※アイドルシリーズ番外編



「ちょっと銀時!ちゃんと片付けてよね」

「わァーってるよ」


先週、このマンションに越してきてからようやく段ボールの数も少なくなってきた。久しぶりに銀時の仕事も休みということで、残った段ボールを片付けることにしたのだ。
前の部屋よりはるかに大きなここは、銀時とわたしにそれぞれ部屋があるのと2人の寝室もある。とにかく部屋がいっぱいで、まだまだ空いてるところさえあるほど。隣の部屋で荷物を広げているであろう銀時に声をかけ、わたしも片付けに専念する。


「………ふふ」


ひとりでこうしてにやけてしまうにはわけがある。
段ボールからいそいそと取り出したのは大きなポスター。友達にもらったそれを壁にシワが寄らないよう、慎重に貼っていく。


「かっこいい…!」


実は最近はまっている、BANSAIというアイドル。銀時の所属するjoyのグループの作曲・作詞を手がけていて、先日ソロデビューをしたのだ。いい歳をした社会人の女が持っていていいのかは疑問だけど、貼らないわけにもいかず。


「…お前、なにしてんの」

「ちょ、ノックしてって言ったじゃん」

「音しなくなって来てみたらポスターじっと見つめてるし」

「別にいいでしょ」


そうしてまたうっとりとポスターを見つめていると遮るように銀時が目の前に立つ。


「ちょっと!」

「なんでよりにもよってコイツなんだよ!ホント胸くそ悪ィ」

「ほっといて」


ぐい、と胸板を押せばヘッドホンをしてこちらを見ているBANSAIと目が合う。


「こんなござる野郎のどこがいーわけ」

「そこがまたいいの!クールなのにござる口調とか」

「ンなの俺が何回でも言ってやるでござる」

「うざい」


口を尖らせる銀時に笑って休憩にしよう、とリビングに向かう。
冷蔵庫からアイスコーヒーといちご牛乳を持って、先にソファーに座っている銀時に手渡す。


「あー、うめえ」

「………あ、そうだ」

「なに」

「高杉さんに会ったらありがとうって言っといて」

「あいつとなんかあったわけ?」

「わたしがBANSAI好きなんです、って言ったら今度会わせてくれるって」


なんか知り合いらしいよ、と続ければ途端に苦い顔つきになる。


「……それマジで高杉が言ってたのか?」

「うん」

「ありえねェ…ていうかいつの間にそんな仲良くなってんだよ!」

「えー、普通だよフツウ」


面白くなさげにいちご牛乳を啜る。そんな銀時を横目にBANSAIに会ったらどんなことを言おうか、そればかり考えていた。


「とりあえずあのポスター没収な」

「えー!なんで」

「旦那がjoyのリーダーなんだぞ!そっちの応援しろよ」

「旦那って……まだ入籍してないじゃん」

「と、とにかく!あれはダメ、禁止」

「じゃあポスター剥がしたら婚約破棄ね」

「はァ?!それとこれカンケーねえだろ!」

「だったら旦那がjoyだろうがなんだろうが、わたしの好きな芸能人にまで口出しするのはおかしいんじゃないの」

「…」


もともと口がうまくないくせにこうやって喧嘩を売るのが銀時の悪いクセだ。素知らぬ顔でアイスコーヒーのおかわりを入れるため、席を立つ。


「…なんか最近冷たくね?」

「気のせいじゃない?」

「嘘だっ!前は俺の出てる番組とか撮ってくれたのに最近BANSAIばっかだし」

「だってかっこいいんだもん」

「そんなの俺のほうがかっこいいから」

「ハイハイ」


軽く流して、また部屋の片付けに戻ろうとリビングを出ると後ろからひょこひょこついてくる。でも相変わらずその顔は不機嫌そうでそれがまたおかしい。


「いい加減機嫌直したら」

「…お前が悪ィんだろ」

「そうだね、ごめんごめん」

「なにそのどーでもいい感じ!」

「BANSAIはただのファンとして好きなだけだから。銀時はちゃんと愛してるよ」


そう言ってちらりと後ろを見ると、真っ赤な顔をした銀髪が口を開けて立ちつくしている。くすりと笑って部屋に戻る。
これでポスター没収はなさそうだ。次はCDや雑誌でも買ってこようかなと思いながらまた作業を再開する。



明日の匂いがする




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