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背中 [ 7/29 ]





たまたま朝早く起きたので、道場で素振りをしながらみんなの到着を待つ。普段寝坊してくるあたしが先に練習している姿を見たらきっと驚くだろうな、とニヤニヤしながら竹刀を振る。だけど、いくら待っても誰一人として起きてくる様子がない。なんだよもう、と銀時の部屋を覗くがもぬけの殻。布団もすでに片付けられていた。小太郎や晋助の部屋も同じようにさっぱりとしていた。
なにこれ、どういうこと。理由が分からないあたしはただただ立ちすくむだけだった。




「おい、名前にバレないようにしろよ」
「んなこと分かってらァ。おい、ヅラもっと静かに歩けや」
「ヅラじゃない、桂だ!」
「声デケーんだよお前はァァ!!」
「そう言ってるお前の声もでかいだろ、天パ」


「……何してんの」


ひそひそと囁く声がして、門のところまで行ってみると案の定3人がバカな言い合いをしていた。


「げっ」
「ほらヅラのせいで気づかれちまっただろーが」
「俺のせいにするな!そもそもお前らが」
「ちゃんと説明して!」


また下らない喧嘩が始まる前に怒鳴りつける。あたしの声に驚いたのか、ようやく口を閉じた。


「俺パス。ヅラこういうの得意だろ?任せた」
「…銀時」
「えええ!?俺かよ」


なかなか説明しようとしない3人にしびれを切らし、早くしろと急かす。あたしの鋭い眼光にびびったらしく、しぶしぶ銀時が口を開いた。


「…隣の道場とやり合ったんだよ。言っとくけど、あっちから喧嘩売ってきたんだからな」
「そんなこと、あたし知らない」
「………」
「なんで何にも言ってくれなかったの」
「………」
「っ、なんか言ってよ!」


「危ねェからだ」


今まで黙っていた晋助がぼそりと呟いてそのまま自分の部屋へ行ってしまった。銀時が気まずそうにあたしをチラチラ見ながら晋助の言葉に続くように話しはじめた。


「お前女だから怪我したりしたら大変だろ?それに俺らだけで片付けられるようなヤツだったし」


やっぱり変わらないんだね。あたしが女だから、みんなより力がないから、強くないから、仲間には入れてもらえない。いつもそうだ。鬼ごっこをするときも天人と戦うときも、あたしはいつも遠くであんた達を見つめるだけだった。


「……も、いい」
「名前?」


小太郎の呼びかけを無視してひたすら走る。どこか遠くに、あの3人が来れないどこか遠くへ。雑木林を過ぎて、拓けた原っぱまで来たところで足を止めた。所々草で切れたところがヒリヒリ痛む。
……悔しい。あたしは絶対にあいつらには追いつけない。だって女だから。所詮どんなに努力して強くなっても男には勝てないのだ。だからあたしはこんなにも弱くて、脆い



遠ざかる背中を僕は黙って見ているしかできなかった




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