優しさ [ 5/29 ]
バシンバシン、と竹刀が当たる音が響く。むわりとした暑さに顔をしかめて垂れてきた汗を拭った。
「銀時は一体どこに行ったのだ」
「あいつなら水飲みに行ったよー。何?相手でも探してんの?」
「うむ」
「じゃあ、あたしがやってあげる」
「おなごとはやれん」
「いい加減にしてよ小太郎。女扱いすんなって何回言えば分かんの」
小太郎はいつもそうだった。一緒に学んで一緒に過ごしたあたしをいつまでも女の子扱いして、決して竹刀を交えようとしなかった。それは攘夷戦争の時も変わらなかった。女は戦場にいるべきじゃない、危険すぎると言われて大喧嘩をしたことがある。
「ヅラ、やってやれよ。名前は見た目こそかろうじて女だが、中身はゴリラだ」
「晋助、それどういう意味」
「しかし……」
「もういいよ、他の人とやれば?」
あれでも晋助はあたしの肩をもってくれた。それでもまだ渋っている小太郎に嫌気がさして、竹刀を担いでその場から立ち去る。別に小太郎の相手をしたかったわけじゃないし、無理やりにでもあたしと練習なんてしてほしくなかった。
道場からすこし離れた日陰に腰をおろし、手拭いで顔を拭く。小太郎のようにあたしが男に混ざって戦うことをよく思わないやつはたくさんいた。それは仕方ないことだと割りきってきたけど、小太郎にそう思われるのはキツイ。親しいからこそ認めてほしいのに。
例えあたしが誰よりも強くたって、女だということだけで戦うなと言われてしまう。
「…女に生まれなきゃよかった」
そうすればみんなと同等に戦えたのに、な。膝を抱えてぎゅっと自分を抱きしめる。
「男なんていいこと一つもないぜ」
「……しんすけ、」
「結婚したら養わなきゃいけねェし、責任は男に押しつけられるし」
「………」
「分かったら俺の相手しろ。女だからって手加減しねえからな」
「うん」
晋助はあたしたちの中で一番優しい。それは大人になってからも変わってないのかな
君の優しさを知ってる
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