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物語は [ 29/29 ]





あれから銀時とはなんというか、微妙な関係だ。

好きだと互いに伝えても恋人同士にはなれていない気がする。若いときにはなかっためんどくさい感情が邪魔をして、ただ好きでいるだけじゃいられない。


「いらっしゃい、名前さん」
「これ、おすそ分け」
「え!いいんですか」
「うん。実家からたくさん送られてきたから」
「うわー、助かります」


ただ、新八くんと神楽ちゃんとは親しくなった。たまにこうして遊びに行くほどには銀時とも交流がある。


「名前!来たアルカ」
「久しぶり、神楽ちゃん」


勢いよく抱きついてきた神楽ちゃんを抱き止めてその丸い頭を優しく撫でる。ぐりぐりとお腹に頭をすりつけるのがかわいくてぎゅっと背中に手を回した。


「おー、来てたのか」
「うわなにその顔」
「おまっ、開口一番それかよ!?大丈夫とかいたわれねェの」
「どうせ朝までキャバクラで飲んでたんでしょ」
「うぐっ」


気まずそうにボリボリと頭を掻いているダメ男を一瞥し、とりあえず上がらせてもらうことにする。
定春の体を撫でていると、そこであることに気づく。


「あ」
「どうしたアルカ?」
「さっき寄ってきたお店にケータイ置いてきちゃった」
「はァ?なにやってんだよお前」
「ごめん、ちょっと取りに行ってくる」


さすがにそのまま放置するわけにもいかないし。さっき脱いだ下ばきにもう一度足をつっこむ。


「じゃあ銀さんも行ってきてくださいよ。名前さんだけじゃ心配ですから」
「………しゃーねーな」
「え、いいよ。大丈夫だから」
「いいから黙ってろ」


背中をぽんと軽く叩かれてからようやく新八くんが気を回してくれたことに気づいた。まったくかなわないなあ、と眉を下げて2人に手を振る。
外はまだ明るくて人の往来もある。なんだか微妙な雰囲気のなかでとりあえず足を動かす。


「…」
「…」
「あ、そこ右」
「ん」


会話といったら道順を説明するものだけで、ものすごくいたたまれない。意味もなく髪の毛を整えてみたり着物のシワを直してみたり。


「なんか…混んできたな」
「ああ、ここスーパーとかお店多いから夕方混むんだよね」
「ふーん」


ちょっとだけ顔をしかめた銀時を横目にすたすた足を進める。時おりすれ違う人にぶつかって謝りながらお店を目指していると、ふと隣にいたはずの銀髪がいないことに気づいた。きょろきょろ回りを見ても見当たらなくてたぶん道を歩いていた女の子に目を奪われたりディスプレイに飾られたパフェをよだれをたらしながら見ているんだろう。


「まったく……そういうとこは変わってないんだから」


そのうち会えるだろう、とため息を落としてとりあえずケータイを取り戻すことを優先する。記憶をたどってお店を見つけようとしていると、すっとすれ違った人の香りに立ち止まる。
いつか嗅いだことのあるそれ。記憶が、甦る。


「晋助………?」


呟いた声は喧騒のなかに消えた。振り返ればすこし離れたところに見えた紫の布地に黄色の蝶が舞っている派手な女物の着物。

『派手なもんが好きなんだよ俺ァ』

あのときから変わってないのは、銀時も晋助もおんなじなのかもしれない。


「晋助っ!」


どうか気づいて、こっちを向いて
またな、とわたしの頭を撫でて去っていった背中を忘れるわけがない。いつだって誰よりもわたしを心配してくれた。銀時と喧嘩したとき味方になって一緒に怒ってくれた。たとえ世間でテロリストと定義されたとしてもわたしのなかではずっとあのときの優しかった晋助のままなんだ。

人の流れに逆らうようにして追いかける。ごめんなさい、と謝りながらも手を伸ばす。


「っ、しんす「名前!」


後ろでわたしを呼ぶ声
見れば、銀時が人をかき分けながらこちらにやって来る。額に光る汗のつぶを見て、今までわたしを探していてくれたことがわかる。


「探したぞ」
「ごめん。………あ」


ぱっと晋助らしき人の後ろ姿を探すけどもう見つからない。


「気のせいだったのかな」
「なにが」
「いや、なんでもない」


はあの懐かしい香りや派手な着物がちらついている。数回頭を振って残像を追い出した。


「ほら、あそこじゃね?」
「うん」


指差されたお店を見てひとつ頷く。すみません、と声をかければにこやかに笑ったおばさんに迎えられた。


「あの、さっきこのお店で忘れ物しちゃって」
「ああ、もしかして携帯電話?」
「はい!それです」


手渡されたそれを片手にありがとうございます、と頭を下げる。また来てねとちゃっかり宣伝されて苦笑いで立ち去ろうとすると、後ろから呼び止められた。


「すっかり忘れちゃってたわ。……はい、これ」
「なんですか?」


高そうな袋に包まれたものを手渡され、頭にハテナマーク。


「必ず来るから渡してくれってお侍さんが」


そろりと開けてみるとそこには色とりどりの金平糖が並んでいる。銀時は不思議そうにそれを覗きこんでいるが、わたしにはわかる。


「…これくれた人ってどんな着物着てました?」
「そうねえ……だいぶ派手なのだったと思うけど。確か紫のに蝶々があったかしら」


やっぱり、そうだ
てのひらにあるそれをぎゅっと優しく握る。

『お前、金平糖好きだろ』
『うん』
『ほらこれやんよ』
『うわ!ありがと』

ホントはちゃんと会って話したかったけど。こうやってまだ昔を忘れてないことがわかって、それだけでもう十分。


「なんだよ、知り合い?」
「まあね」
「……なにニヤニヤしてんだよ」
「なんでもなーい」


袂に大切に入れておく。
銀時には当分秘密にしておこう。



物語は今日も続く




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