ワールド | ナノ
日常の欠片 [ 26/29 ]





辺りは焼け野原。残ったものなどなにもなかった


「…」


生き残った人はみんなそれぞれの道に進んで行った。わたしたちを結んでいたものはおそらく、戦争の終わりとともに消えていってしまったのかもしれない。

わたしはひとり、錆びた愛刀を握って突っ立っていた。
空は相変わらず曇っていて太陽は見えやしない。


「名前」
「小太郎」
「荷物は持ったのか」
「うん」
「…………行くぞ」


その言葉は、一緒に行くという意味じゃない。バラバラになるということだ。


戦争に意味はあったのか
何回自分自身に問いかければ納得する答えがかえってくるんだろ。己の手を血に染めて、仲間をなくして。そうして得たものなんてあるんだろうか。
ただ、先生というわたしたちの世界を取り戻したかった。それだけだった。おもちゃを取りあげられた子どもみたいに泣き喚くだけじゃ無意味で。だから力ずくて奪い返せばいい、なんて。


いままでずっとわたしの側にいてわたしを守り続けてくれた刀を地面に突き刺す。たぶん、この先はもういらないや
ありがとう、そしておやすみ
するりと一撫でしてから小太郎の背中を追いかけた。


「やァーっと来たか」
「すまん、遅れた」


すでに3人がわたしたちを待っていたようで、ごめんと声をかけておく。
少ない荷物を持って立ち上がる。


「行くか」


幕府に捨てられたわたしたちが向かう先はどこなんだろ。どうしたってきらきら輝く未来がみえない。
一歩また一歩歩くたび、別れも近づいていく。なにを間違えてなにを直せばよかったのか。そもそも間違いとはなんなのか。そればかりが頭の中を駆けめぐる。


「余計なこと考えてんじゃねーぞコノヤロー」
「しっかり前を見ろ、名前」
「おんしが笑っちょらんと調子狂うのー」
「ガキみたいにぴーぴー泣くんじゃねェぞ」


うつむいていた顔を上げれば、4人が笑ってわたしを見つめていた。代わる代わるに頭を撫でられる。


「またな」
「菓子ばっか食べるんじゃないぞ。ちゃんと野菜も食え」
「アッハッハッハ!たまには会いに来ちゃる、待っとれ」
「元気でな」


やだ、行かないで
なんでそんな笑ってられるの

涙が流れて、頬につたっていく。先生がいなくなった悲しみも仲間を失っていくつらさもみんながいたから乗りこえられた。
家族、だった


「わたしっ、」


まだ言えてないことだってある。ホントは未来から来たんだって。先生が死んじゃうことも戦争に負けることももう最初から全部知ってた。それでも止められなかった。

それに、銀時にだってまだ言えてないことあるのに


「待っ」
「そんじゃな」


揺れる銀髪
伸ばした手
遠ざかる背中



そこで、目を開けた。
広がるのは見知った壁。ハアハアと切れた息で、周りを見ればそこはわたしの部屋だった。
………戻ってきたのだ

長い長い夢。あの頃に戻ってわたしが得たものは、



たわいもない日常の欠片にすら君がいるから




[*prev] [next#]
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -