夢の [ 25/29 ]
戦争は激しくなり、仲間が次々と消えていった。だけど敵は勢いを増していくいっぽうで、武器も人数も増していった。もう、わたしたちの敗けは明らかだった。
「この戦争が終わったら名前はなにをするつもりなんじゃ?」
刀を研ぎながら辰馬にそう問われる。
この、戦争が終わったら。わたしはもといた世界に戻れるのだろうか。街には天人がはびこり、真っ青な空には船が浮かぶ、そんなあの世界に。
「…まだ決めてないよ」
コトリ、と刀を手から離してつぶやく。
「辰馬は?」
「わしはなァ、宙に行きたい」
「宙って……」
「船に乗っていろんなもん見て回りたいんじゃ」
「へェ」
辰馬らしいと笑えば、照れたように鼻の頭を掻いている。
「それじゃあ辰馬が船に乗れるようになったら、わたしも乗せてね」
「もちろんじゃ、楽しみにしちょれ」
「うん」
辰馬に夢があるように、晋助や小太郎・銀時にも夢があるのかな。わたしのいた世界(江戸)では晋助は過激攘夷志士に小太郎だってそうだ。銀時は…知らないけどきっとどこかで楽しくやってるんだろう。そんな風に、戦争が終われば今まで一緒だった仲間がバラバラになってもしかしたらもう二度と会えなくなってしまうかもしれない。
しょうがないと言ってしまえばそれまでだけど。わたしはみんなと一緒に同じ時間を過ごしたい。
「わがまま、かな」
「?」
「みんなと一緒にいたいっていうの、わがままかな」
「アッハッハッハ!げにまっこと名前はかわいいのー」
「なによバカにしてんの!?」
「そうがやない、褒めとるんじゃ」
頭を数回撫でられて、くしゃくしゃになった髪の毛を手ぐしで直す。むっと片頬をふくらませて隣に座る辰馬を睨んだ。
「一緒におることだけが仲間やない。同じ場所におらんでもつながっちょるよ、わしらは」
そう言ってにかりと笑う辰馬に不意に涙がこぼれそうになって、慌てて上を向く。それに気づいたのか気づいていないのかわからないけど、辰馬がまたゆっくりと一度だけわたしの髪を撫でた。
朝だと言って一番に起きていたのはいつも小太郎。小太郎が大きな声で歩き回って、わたしたちはようやく目を覚ました。銀時なんかいつも以上に死んだ目をして、ほかほかと湯気を出すお茶碗を右手にぼうっとしていたっけ。稽古はほとんど晋助と一緒にやっていた。たまに3人が戦っているのを離れたところで見ては笑ったし。喧嘩も涙も、笑顔もみんな同じように同じ場所で経験した。そしてそこにはいつも先生がいた。
みんなが大好きだった、先生。捨てられた、親のいなくなったわたしたちを拾って面倒を看てくれた。かけがえのない存在。だけどわたしはなんの恩返しもできないまま先生は逝ってしまった。遠い遠い手の届かない、もう二度と会えないところに。
「………辰馬」
「ん?」
「ちょっとだけ、泣いてもいい?」
「思いっきり泣きゃあええ」
「…ありがと」
ひざに顔をうずめて肩を震わせる。まぶたの裏には先生の笑った顔が浮かんで、それがまた無性に泣きたくなる。
もう平気だと思ったのに。もう、大丈夫なんだと思ってた。だけどきっといくつになってもわたしはあの日のことを悔やんでは涙を流すのだろう。乗り越えて忘れることなんて、できやしないのだ。
わたしが先生を思い出して泣いた次の日、先生を殺した世界を変えるための戦争は終わりを告げた。
夢の続きの終わり
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