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君となら [ 24/29 ]





「いててて」
「お前バカだろ。ホントバカだろ」
「うるさいな」


腕にされた消毒がヒリヒリ痛む。銀時が呆れたようにため息を吐いた。


「基地で残ってろって言ったろ」
「そうやっていつもわたしだけ置いてきぼりじゃん!」
「……置いてきぼりってガキかよ。ったく、ちったァ言うこと聞け」


そりゃあ内緒であとをついていったのは悪いと思うけど。その結果敵に襲われてケガをしたのだってわたしのせい。
だからってどうして置いていかれなきゃいけないのか。


「わたしが弱いからダメなの?それとも女だから?仲間って認めてくれてないの?」
「そうじゃなくて」
「そうだよ!」


いつだってそうだった。
男だらけのこの戦場でわたしの存在は良くも悪くもとにかく目立つ。もちろん女だから力も弱い。そして、真っ先に狙われるのはわたしだ。欲にまみれた目で見られることだって少なくない。
でもそれでも頑張ってこれたのは銀時・晋助・小太郎そして辰馬がいたから。それなのにみんなに拒否されたらわたしはどうすればいい


「違う」
「…」
「お前が女だとか弱いからじゃねェ。ましてや仲間だって認めてないわけじゃない」
「………じゃあどうして」
「傷つけたくないから」
「…っ」
「こうやってケガしてほしくねーからだよ」


腕に巻かれた包帯をそっと指先でなぞられる。ツキンと鈍く痛んで眉をしかめた。


「でも、」
「いいから。頼むから言うこと聞いてくれよ」


たぶんこれから銀時たちが行こうとする所は、敵の本拠地なんだろう。きっとわたしじゃ歯がたたない奴らばっかりなんだろう。

目の前の銀時はいつもみたいな死んだ魚の目に代わって真剣そのもの。
しぶしぶ頷く。


「よし」


ぐりぐり頭を撫でられた。あったかい手のひらに胸の奥のほうがドクンと音をたてる。


「んじゃここにいろよ」
「銀時も、ケガしちゃダメだからね」
「おう」


笑って腰に刀をさす。不安を見せないように笑えば銀時もそれを返してくれた。……大丈夫、銀時は強い。晋助も小太郎も辰馬も。
だからわたしはみんなを笑って迎える準備だけをしてればいい。




「帰ェったぞー」
「うわ!泥だらけ」
「名前、救急箱持ってきてくれんか」
「え、辰馬ケガしたの?」
「辰馬だけじゃねーよ」


いてて、と腰をおろすみんな。確かに所々血が滲んでいる。
慌てて奥の部屋から救急箱を取ってきて治療をはじめる。


「はい、さっさと着てるもん脱いでそこの濡らした手拭いで体拭く。終わった人からわたしんとこ来て」
「きゃー、脱げなんて名前ちゃんエッチ!」
「銀時はそんなに消毒液ぶっかけられたいの」
「すいませんでした」


バカみたいなこと言う元気はあるみたいね、と嫌みっぽく睨み付けると気まずそうに目をそらす銀髪。


「名前、頼む」
「うん」


どっかりと晋助が座って、消毒液と包帯を取り出す。わずかにしみるようでさっと顔を強ばらせたのがわかった。ある程度消毒をして包帯を巻いていく。
擦り傷とか小さいケガばかりだったのがせめてもの救いだ。


「はい次俺」
「銀時!きちんと順番は守れと日頃から言っているだろう」
「そうじゃ。いくら名前が他の男に触ってほしくないからって…」
「だァァ、うっせ!あっち行けおめぇら!!」


また下らないことで…とため息。ぎゃいぎゃい数分間騒いで、それに勝ったらしい銀時がようやく満足そうに座った。


「いでェェエ!」
「うるさいなァ。ちょっと多めに消毒液かけただけでしょ」
「いや、ちょっとじゃねえから!なに殺す気!?」
「ちっ、バレたか」
「名前ちゃんんん」


ケガしないって言ったくせに。口には出さないけどむっとしながら包帯を巻いていく。
こんな戦争に参加しているのだから傷をつくらないほうが無理なのだ。だけどケガをしないようにと、願ってしまうのが仲間


「はい、終わり」
「サンキュー」


散らばった医療器具を箱に戻しながら、そういえばと口を開く。


「ありがとね」
「あ?なにが」
「心配してくれたんでしょ」


わたしを置いていこうとした時。心配してると真正面から言わなかったけど、きっと銀時が思っていたのは確かにそういうこと。
思えばいつも銀時はそうだった。いつもダルそうにしてるくせに誰より真が強くて優しい。


「わたし、銀時のそーいうとこ好きだよ」


にっこり笑って銀髪に目を移すと目を真っ赤にして、そっぽを向いていた。


「ちょ、なに赤くなってんの」
「そういうことはもうちょいソフトに言えよお前」
「わたしが悪いの!?」
「照れんだろうがコノヤロー!」
「はァ?知らないわよそんなこと」
「そう言ってるお前ェも耳赤いじゃねーか」
「あんたが先にトマトみたいになるからでしょ!」

「なにをしてるんだお前らは」


小太郎の声にはっと口を閉じる。真っ赤になった互いの顔を睨んでから、フイとそらす。


「まったくでかい声で言い合っているかと思えば…いい加減にせんか」


お母さんよろしく説教を始める小太郎の後ろで、辰馬と晋助がニコニコニヤニヤしながらこっちを見ていたのは知らないふりをしよう。



どこまでだって行けるさ君となら




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