つまり [ 23/29 ]
少なくなった仲間。
寝泊まりで利用しているこの場所もガランとして人影はあまりない。話し声やゲラゲラ笑う、当たり前だった風景や音がない。
ぎゅっと口を結んでうつむく。変わらないものはどこにあるんだろう。
「名前、ちょっといいか」
「う、うん」
突然、晋助に呼ばれてあとについて行くと縁側にたどり着いた。腰をおろして足をぱたぱた動かしながら晋助の言葉を待つ。
「お前がこの間言ってた話の続き、聞かせろよ」
「この間……?」
「未来がどーだっていうやつ」
ああ、そうだった。
この前晋助に呼ばれて初めてわたしのことを話したんだっけ。
「信じてるの?」
「名前が冗談でンなこと言うやつじゃないってことくれェ知ってる」
隣に座る晋助の目は柔らかい。信じてくれるのだとわかってほんのすこしの安堵と嬉しさ。
「じゃあ、なにから話そうか」
「お前はなにやってんだ?」
「わたしは…普通に働いてるよ。江戸で一人暮らし」
「男はいねェのか」
「こ、これからよ!付き合おうと思えばいつだってできるんだから」
「へェ」
くつくつと晋助が笑うのにつられてわたしも笑う。
こんな暗いときだからこそ笑わなきゃいけない。そう思った。
「未来にはね、金平糖以外にもおいしいものたくさんあるの。ステーキとかパイとか」
「一度、食ってみてェな」
「あと髪型だって…あと着物も女の子はすごく丈が短いし」
このくらい、と太もも辺りに指を指し示すといやらしい笑みを浮かべる。そりゃいいな、とニヤニヤする晋助に最低と言葉を投げつけた。
ぎゃいぎゃいと言い合ってしばらく沈黙。意を決して心の奥にあった想いを口にしてみた。
「………聞かなくて、いいの?」
「なにを」
「晋助がどうなったとか、仲間がどうしたとか……国がどうなったとか」
もし、わたしが晋助だったら気になる。わたし達が守り続けた戦い続けたものが未来ではどう変わっているのか。
「気にならないわけねェ。でも聞いたところでお前を困らせるだけだろ」
「…」
「それにお前の場合、」
「?」
「絶対なにも言わなそうだしなァ」
ゆっくり微笑むそのすきにひんやりとした風がわたしの頬を撫でた。いつの間にか陽は沈んで薄暗くなっている。
それから数十分、いや数時間かもしれない。晋助と2人で黙って空を見上げていた。星がキラキラと輝いて見えるようになったころ、小太郎がメシだぞと叫ぶ声が聞こえた。
「…行こっか」
「ああ」
立ち上がってみんなの元へ向かう。すっかり寂しくなった大広間に入った途端、視線が刺さる。
「高杉も名前も一体どこに行ってたんだ」
「べつに」
「ほら、はやく食べようよ」
お腹空いちゃった、と辰馬の隣に座るとわたしを見つめる紅い目に気づいた。
「なに?」
「なんでもねー」
ほかほか湯気をたてる白いごはんに味噌汁。確かに未来にはおいしいものがたくさんあるけど、こうしてみんなで囲んで食べるほうが何倍もおいしく感じると晋助に教えたくなった。
「ごちそーさん」
「ごちそうさま」
「名前、皿持っちゃる」
「ありがと」
それぞれが片付けを始めてわたしも食べ終えたあとの台を片付ける。
「名前」
「なに?」
「ちょっといいか」
銀時に呼ばれてなんだろうと首をかしげる。みんながいる所はイヤだと言うので仕方なく隣の部屋に移動した。
「どうかした?」
「…………あの、さ」
言いにくそうに頭を掻いたり、あーだのうーだのと唸る銀時をただ見つめる。
「率直に聞くけど」
「うん」
「お前、高杉と付き合ってんの?」
「はあ?」
なにを言うのかと思ったら。ふう、と大きくため息を吐いて目の前の銀髪を睨みつける。
「なにそれ」
「だって縁側で2人きりでなんか話してただろ」
「あれは別にそーいうんじゃないから」
話は終わったとみんなのところに戻ろうとすると、グイと強い力で腕を引かれた。
「まだなんかあんの?」
「……あんま他のやつと一緒にいんなよ」
「へ、」
気になっから。
まっすぐわたしを捉える目をそらすことができない。だんだん体温が上昇していく気がする。どくどく、と心臓がすこしはやく鳴り出す。
「俺は名前がす」
「銀時ィィィイイ!」
スパーンと気持ちのいい音をたてて襖が開いた。
「お前俺のシャンプー使っただろう!」
「ヅラみたいにサラッサラになれっかなーと思って…って違うわァァ!!てめえ今すんげーいいとこだったんだぞコノヤロー!」
つーかシャンプーくらいケチケチすんじゃねェ!
高いんだぞこれ!
やいのやいのいつもの下らない言い合いが始まって、さっきまでのほんのり甘い雰囲気はどこにいったのやら。小太郎と喧嘩する銀時を見てあーあ、とすこしだけ残念に思うわたしがいた。
つまりは好きだということ
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