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失う [ 22/29 ]





あのときのキスに一体どんな意味があったのだろうか。たまに唇を指先でなぞっては考える。

あれから銀時とはホントに普通に接している。食べ物争奪戦を繰り広げたり、稽古をしたり、昼寝をしたり。なにも変わってはいなかった。それがはたして良いことなのかさえよくわからない。
でも平凡な日はそう長く続かなかった。




「全滅……?」
「それ本当なのかよヅラ」
「ああ」


敵地への偵察ために向かわせた部隊が全滅したと小太郎から聞いた。争いが一向におさまらないことにしびれを切らした天人たちが圧倒的な力でわたしたちを押さえつけようとしているのだ。激戦化している、とは聞いていたけどその闇が少しずつわたしたちのほうへ進んできている。


「ここもそろそろ危ねェな」


ぽつりと晋助がもらした言葉にみんなの眉間のシワが濃くなる。この場所を捨てて新しいところへ行ったとしても、いつかは戦わなきゃいけなくなる。


「決断のときじゃな。…今ここで戦うか。それとも、逃げるか」


血を流さない解決法なんてきっとない。第一話し合いなんかでわかりあえる奴らじゃないし。いよいよ来た、すべてを決めるときが。


「俺は戦う」
「…俺もだ」
「それ以外の解決案はなさそうじゃな」


のんきにアクビをする銀時を横目にわたしも頷く。

先生を守るために、世界を壊すためにわたしたちは刀を握る。間違ってない。そうですよね、先生。




「高杉と鬼兵隊は西を頼む。そして坂本と敵を挟み込んでくれ」
「わかった」
「銀時と名前と俺は一緒に斬り込む」
「うん」


地図を広げてそれを囲むように座る。嵐の前の静けさ。その言葉の通り、ただ小太郎の話す声だけが響いていつもの騒がしさは消えている。どうやって敵を追いこんでいくか計画を話し、いよいよ刀を握って最後の準備をした。
怖くない、と言えば嘘になる。わたしは生きてまた自分の世界に戻ることができるのかわからない。確証もない。


「行くぞ!」
「オオォォォ!!」


空気がビリビリと振動して刀の刃先が小刻みに震えた。おそらくそれだけのせいじゃないだろうけど。空への咆哮のあと、一気に駆け出していく。散り散りになる仲間の安全を祈りながら目の前の敵に刀を突き立てた。
向かい来る天人たちの血を浴びてとにかく前へ前へと進んでいく。その先になにがあるのかわからないけどそうでもしないと、ダメになってしまいそうで。


「死ねェェ!」
「っ、」


背後から迫ってきた敵に、ここまでかと目を瞑ると銀時の声が聞こえた。


「大丈夫か?!」
「あ、ありがと」


油断するな、と怒鳴られて気を引き締める。集中しなきゃ、ここは戦場なんだから。殺られなきゃ殺られる。




何時間こうしてたんだろ。刀を持つ手が痺れて感覚がなくなりはじめたころ、ようやく一段落ついた。辺りには死体がごろごろ転がっていて、それは天人や仲間のもの。そこから目を反らして銀時や小太郎の姿を探す。


「銀時!」
「名前か。ケガは?」
「大丈夫。小太郎は?」
「ヅラならさっき会った。高杉たち探しにいった」
「そっか」


とりあえず大丈夫らしい。ほっと一息吐いて胸を撫で下ろした。そこであることに気づく。


「……銀時」
「なに」
「銀時の隊の人は?どこ?」


銀時が率いる隊の仲間たちがどこにも見当たらない。キョロキョロと見渡して探すも、人が動いている様子はない。


「…………死んだ」
「え?」
「全員死んだよ」


ぽろりと刀が右手から滑り落ちてカシャンと高い音が地面に響く。
昨日まで一緒にいて、笑ってたのに。わたしの隣で息をしていたのに。ふと今までわたしが生きていた世界を思い出す。わたしは確かにあの頃攘夷戦争に参加してた。でも、結局残ったものはなにもなかった。


わたしはまた同じ過ちを繰り返したの?



失うことには慣れています




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