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あい [ 21/29 ]





「銀時、お前今までなにを」
「みなまで言わなくていいぜェヅラ。こいつ、十分楽しんだらしい」
「金時はモテるからのー。うらやましいき」
「そんなんじゃねーよ!…ちょっと村のやつらと話し込んじまっただけ」
「へェ……?じゃあその首の赤い痕はなんだ」
「!」
「しっかり確認しとくんだな」
「〜〜うるせェな!」
「静かにしろ!もう夜だぞ。…ときに銀時、名前はどうした」
「知らねーけど。なに、まだ帰ってねェの?」
「ああ」
「心配しなくても大丈夫じゃろ。名前はわしらよりしっかりしとる」


わたしを除くアホ4人がそんな会話をしていたころ、しっかり者らしいわたしはものすごいピンチに巻き込まれていた。
さかのぼること数分前




「あんの天パ!一生スチールウールヘッドでいろ!!」


林の中を銀時の文句をぐちぐち垂れながら歩いていた。辺りはもうとっくに暗くなっていて、村の明かりも届かないほど
普段なら用心深くすこしでも明るいほうを目指して歩くのに、銀時のバカのせいで我を忘れてしまっていた。だから気づかなかったんだ。背後から近づく影に


「ひとりでこんなとこ通ってどこ行くんだい?」
「!」


太い声に後ろを向けば、人間ではないそれが3人ほど刀を持って立っていた。
着ている服はぼろぼろで、刀も刃こぼれしている。おそらく戦いに敗れた天人たち。こういう輩は道行く人間を襲ってその身から金目のものを奪うという、まるで山賊のようなことをしている。
そして今回のターゲットはわたし

ごくりと唾を飲み込んで、胸元にしのばせた短刀を掴む。身を守るためにいつも持っていたのを今になって感謝する


「へへっ、やろうってのか?」
「大人しくしとけば痛くせずに殺してやったのによォ」


ジャリ、と足元で音がして横に飛びのいた。戦場に出ているといっても持っている刀も、着ている服も状況も違う。そして相手は3人。
倒さなくてもいい。ただ、この場から逃げられれば


「待てよー!」
「さっさと殺されてくれよ」


げへへ、と汚い笑いに不快感を覚える。ハッハッと息が切れ近くにあった木に寄りかかる。


「隠れたってムダだっつーの!」
「っツ!」


ざくりと刀が二の腕の部分を切り裂く。ごろりと転がり急いでそこから離れて距離をとる。
ちら、とずきずき痛むそこに目をやると着物に血が滲んでいた。相手を睨んだって下品な笑みを浮かべるだけ

右足に力を入れ、一気に距離をつめる。キンキン!と金属の音が林の中に響きわたり、その音に驚いた鳥たちが逃げていく
それに怯んだところを狙ってとにかく相手の体に刀を埋めた。途端、ぐああ!と野太い叫び声。ぐらりと揺れた大きな体に蹴りを入れて倒す。仲間がやられたことに気づいた2人がこちらに駆けてくる。


「チィ!」


あと2人を倒すのは無理に近い。逃げるしかない
足音がバレないような土の道を選んで走る。遠くのほうから奴らの声がしたが、今は逃げることしか頭にない。
もっと、遠くへ




「…なァ、あいつ遅くね?」
「あれから2時間はたってるぞ」
「迎え行ってくる」
「高杉、俺も」

「ただいまー」
「「「名前!」」」


目の色を変えて駆け寄ってくる4人。晋助なんか一番に近づいてきた。


「今までどこ行ってやがった!」
「俺に帰ると言ってから何時間かかってると思っている!」
「心配したぜよ」
「…」


銀時はなにも言わずにただチラチラわたしを見るだけ。大丈夫だから、と手を振ったとき腕に激痛が走り顔をしかめてしまった。


「お前…怪我してるじゃねェか!」


晋助に気づかれてしまい、そのあとはもうすごかった。晋助はわたしの腕の治療をされながら傷を隠していたことを怒られ、小太郎には女の夜の独り歩きと世間がどんなに危ないかを説教された。
へとへとになったころ、辰馬にぽんと頭を撫でられてようやく力が抜ける


「ふゥー」
「お疲れさん」
「……ごめんね、心配かけて」
「わしはもうええ。名前にはもうひとり謝らなきゃいけんやつがいるじゃろ?」


隣の部屋の襖をちらりと見てため息。頑張ってこいと辰馬に背中を押され、しぶしぶ手をかけた

襖の向こうには銀時がぶすっとした表情で外の景色を眺めている。昼間の喧嘩から今まで、一言も話していない
あーだのうーだの唸ってようやくしぼりだしたのは、バカ野郎だった。


「なんだよそれ!心配かけさせといてそれはねェだろ!!」
「う、うっさいな。別に心配してほしいなんて言った覚えありません」
「かわいげねー女。だからモテねんだよお前」
「かわいくないのは銀時にだけ!ほっといて」


口を開けば相手を罵倒する言葉が次々に生まれる。また喧嘩になりそうだと先に察知したわたしは、そっとそこから去ろうと立ち上がる。
そのとき、後ろからごめんと小さな声が聞こえた。


「え?」
「〜っだから、ごめんて言ってんだろ!」
「…」
「ほら、これ」


ズイと差し出された手のひらには色とりどりの金平糖。そっとそれを受け取ってじいっと見つめる。


「…どしたの、これ」
「道に落ちてた」


わかりきった嘘。銀髪からのぞく耳がほんのり赤く染まっている


「腕、大丈夫なのかよ」
「うん、まあ」
「…あんまし夜ひとりで出歩くなよ」
「心配しすぎなんだよ、みんな。わたしだって侍だよ?自分の身くらい自分で守れる」
「…………俺が、」
「なに」

「俺が守りてェんだよ」


まっすぐわたしの目をとらえる紅い瞳。それから逃げられない。魔法をかけられたみたいに
頬に手を寄せられてそっと目を閉じた。次に唇に触れたそれはわたしよりももっとずっと熱かった。



あいのうたをうたってください




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