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届かない [ 20/29 ]





久しぶりに戦いのない日が続いている。ぽかぽかと暖かい陽気にみんなのんびりと寛いでいる。


「いい加減起きろ!」


そして銀時も例外ではない。ぐーすかヨダレを垂らしてもう1日の半分は寝て過ごしてるんじゃないだろうか。戦いがなくなったわけじゃないのに、どうしてこんなにもだらだらできるんだろ


「もうちょい寝かせてくれや母ちゃん」
「誰が母ちゃんじゃ!あんたみたいな天パの子どもなんてほしくないわ」


叩かれた頭をさすって片目を開けてわたしを見やる。もう一度活を入れようかと振りかぶった時、後ろから声をかけられた。


「ほっとけよ名前」
「晋助」
「それより茶入れたからこっち来い。お前の好きな金平糖もあんぞ」
「うそ、行く!」


金平糖と聞いたら行くしかない。やったー!と素直に喜ぶと晋助は満足そうに笑って頭を撫でた。


「高杉テメェ」
「そこで寝てろや、天パ」


なにやら背後で危険なオーラが漂っているが、気にしない気にしない。湯気を出す湯飲みは右手に、金平糖を一粒左手に持つ。


「いただきます」
「お、俺も!」
「あっ」


勢いよくダイブしてきた銀時のせいで、金平糖は床と庭にちらばりお茶は盛大にこぼれてわたしの着物を濡らした。


「熱っ!」
「大丈夫か」


すぐに晋助が隣に来て、わたしの世話をしてくれた。当の本人はやっちまったと言わんばかりの顔でひたすら青ざめてその場に棒立ちになっている。


「火傷にはなってねェみてーだな。痛むか?」
「ちょっとヒリヒリするだけ。大丈夫」
「冷やしたタオル持ってくる。待ってろ」


晋助は走って行ってしまい、残されたのはわたしと銀時だけ。
ちらりと突っ立っている銀時を見ると、びくりと肩を震わせた。


「お前が悪いんだからな」
「は、」
「お前が高杉と…仲良くしてるから」


ぷちん。なにかが切れた


「……なにそれ意味わかんない」
「おま、」
「晋助はわたしのためにお茶とか用意してくれたんだよ。それなのに銀時はそれ台無しにして、しかも謝らない」
「…」
「銀時なんか大ッ嫌い!」


いつもなら馬鹿だなあ、と言って終わり。銀時だって謝ってくれるのに。煮え切らない態度とわけのわからない言葉にイライラしてつい怒鳴ってしまった。あんぐりと口を開けている銀時を残して、背中を向けた。




「またくだらん喧嘩を」
「だってあれは銀時が悪い」
「俺も名前に同じく」


小太郎と晋助に愚痴ってようやくすっきりしてきた。もう一度淹れてもらったお茶を飲んで一息


「すいませーん」
「?」


かわいらしい声がして庭のほうを見ると女の子が数人立ってこちらを見ていた。おそらく近くの村の娘たちだろう。


「お昼まだでしたら、どうですか?お作りしたんですけど」
「それは是非ともいただきたいのー」
「坂本!」
「まァいいんじゃねえのか、たまには」
「高杉まで」


戦いがない日が続くとき、たまにこうして村の人が差し入れを持ってきてくれることがある。まあこの子たちの場合、ねぎらいの気持ちだけじゃないらしいけど。
どうぞこちらへと案内された場所は村の大きく拓けたところだった。おばさんやおじさんがニコニコとおにぎりや味噌汁を作ってくれている。男共は礼も言わずにがっつきだす。


「こんなによくしていただいて、ありがとうございます」
「いーえ、あんた達には村もあたしらのことも守ってもらってるから」


近くにいたおばさんはにっこり微笑んで、あんたも食べなさいとおにぎりを渡してくれた。血にまみれた自分がどうしようもなく嫌になることがあるけど、こうして感謝してくれる人がいるからわたしたちはまだ戦える。

勧められたおにぎりを手にして一口ぱくりと食べる。美味しい。今までに食べたどの料理よりもおいしい


「?」


もう一口食べようとしたとき、向こうのほうが騒がしいことに気づいた。なんだろうと近寄って見ると見知った銀髪が村の若者となにかをしている。周りでは女の子や男たちが黄色い歓声あるいは野太い声援を送っていた


「なに、あれ」
「名前か。…銀時が村の者と飲み比べをしているらしい」


小太郎がけしからん、ともらしわたしもそれに頷く。もともとお酒に強くないくせになにやってんだか
案の定ふらふらした足取りで近くにいた女の子に抱きついている。


「名前」
「なに」
「に、握り飯がつぶれているが」
「……なんでもない」


右手のおにぎりがぐちゃぐちゃになっていることに気づいて慌てて手を離した。また銀時のいるほうを見ると今度は女の子の腰をいやらしく撫でてはイチャイチャしている。


「…名前」
「なに!」
「に、握り飯が大破しているが」


そんなこと、言われなくたってわかってる
右手をブンブン振って手についた米粒を落とす。


「帰る!」
「あ、ああ」


人の群れをかき分けるようにして進む
ああ、イライラする。さっき見た銀時と女の子が頭の中を何度もループする。考えたくないのに、思い出したくないのに

だけどおもいっきり叫びたい
銀時の大馬鹿野郎!!



届かないよ、届かない よ




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