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「いいか、敵は周りにたくさんいる。囲まれたらそこで終わりだ」
「わかってるってヅラ。さっき何度も確認したろ?」
「止めろよ高杉。リーダーぶりたいヅラをそっとしてやれ」
「そうだな。悪かった、ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ!」
「もーいいから!少し黙ってて」


初の戦だというのに、なんだこのだらけきった男達は。もう少し緊張とかしないのか。


「うじうじ考えてたって始まんないだろ」
「…まあ、そうだけど」
「ではそろそろ行くぞ」


小太郎のかけ声でよいしょ、と立ち上がる。周りの真剣な表情にあたしも気を引き締める。
どこまでも広がる血の海、たくさんの屍の中であたしたちは生きていた。昔を思い出してほんのちょっとだけ緊張する。小さく息を吸って吐く。腰にささった自分の刀を不安げにいじる。


「みんな、準備はいいか」


おう!と威勢のいい声に圧倒された。空気がピリピリと肌を突き刺すような感覚をおぼえる。


「伝えたいことは一つだけだ」

「生きろ!」


うおおお!と再度大きな声に思わず耳を塞ぐ。生きろ。それはなんて簡単で難しいのだろう。今ここにいる何人がその約束を果たせるんだろう。嫌なことだけを思い浮かべる頭をふって、邪念を追い出す。今は戦いに集中しなきゃ。
それから散り散りになって向かい来る天人たちを斬っては前に進み、斬っては進みを繰り返した。久しぶりのその感覚に手がカタカタと震えている。血が顔にかかって、鉄臭い嫌な臭いが立ちこめる。

何時間そうしていたのか。さすがに疲れてきて近くにあった茂みに身を隠す。自分の荒い息づかいだけが妙にクリアに聞こえる。ポツ、と冷たい液体が頬にあたったと思うとザーザーと雨が降り始めた。泥と血でぐちゃぐちゃになった服は雨を吸ってさらに重くなる。そろそろ行かなくちゃ。立ち上がった瞬間、遠くに白い装束をまとった見慣れた銀髪を見つけた。ぼうっと突っ立っている姿に違和感を感じる。


「銀時……?」


走って駆け寄っても呆然としている。肩をつかんで揺するとようやくあたしの存在に気づいたらしい。




「大丈夫?どっか怪我してんの?」
「……俺、さァ」


ぽつりと呟かれた言葉に耳を傾ける。


「初めて人を斬った」
「……うん」
「血が顔にかかって、ああ俺が殺したんだって思った」
「……うん」
「俺がそいつの人生終わらせたんだぜ?まだ生きていける命を無理やり」
「もういいよ、銀時」
「俺が、この手で」
「わかった」


だからもう止めて、とやんわり銀時の話を遮る。言いたいこと、思ってることよく分かるよ。あたしも同じだから。同じくらい悲しくて自分が憎いから。あたしだっておんなじだから、だから泣かないで

銀時の頬には雨ではない、水滴がつたっていた。今にも壊れてしまいそうなその体を抱きしめて背中に手をまわす。




「大丈夫だよ」
「……」
「大丈夫だから」


あやすようにポンポン、と背中を叩いて大丈夫だと繰り返す。いつの間にか雨は止んでいて、曇天が広がっていた



あなたは強すぎたのだから弱すぎたのその心




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