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名前 [ 11/29 ]





冷たい雨が肌を打つ。黒い着物を身に纏い、墓の前にみんなが整列する。ときどきすすり泣くような声が聞こえてつられてあたしも泣きそうになる。

晋助はただ一点を見つめている。銀時はいつもと変わりなさそうに見えるが、やはりどこかぼうっとしている。小太郎は何かをこらえているような、そんな様子。




「先生」


呟いた名前に応える人はもういない。あたしの記憶の中で先生は二度死んだ。そして二回ともあたしは何もできなかった。先生を殺したやつを突き止めることも、先生を守ることも。あたしだけが未来を知っていたのに。
仕方ないことだと簡単には割りきれない。一度は覚悟をしたのに、それでもやはり悔やまれる。




「名前、そろそろ行くぞ」


銀時があたしの肩に手を置いてそっと言う。気づくと周りには誰もいなくなっていて、この場にはあたしと銀時しかいない。


「…ごめん、銀時」
「どうした?」
「あたしが先生を殺したんだ、あたしのせいで先生が死んだんだ」
「…」
「ごめん」


優しくしないで。お前のせいだ、と罵って。そうされても仕方ないことをあたしはした。


「それは違う」
「え?」
「俺が殺した」


静かな、それでいてきっぱりとした言葉に顔を上げる。銀時が、泣いていた。雨で濡れていてもはっきり分かった。


「俺がもっと強ければ、先生が死なないですんだ。もっと強ければ…!」


眉間に皺が寄って、涙が溢れている銀時の顔をあたしは初めて見た。泣いているせいか、寒さのせいかは分からないが体が小さく震えている。こんなに弱い銀時を知らなかった。
今にも壊れてしまいそうなその体をゆっくりと抱きしめた。ほんのり暖かさを感じて、少しだけ安心する。


あたし達を濡らす雨はまだ止みそうにない。



声が嗄れるほど呼んだ名前は届かずに消えた




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