マヨ漬け。 | ナノ
『昨夜11時頃、帰宅途中の女性を襲い、現金3万円を奪った2人の男は未だ逃走し…』
最近、こんな事件が多発している。
深夜遅くに仕事から帰ってきた女性を襲い、現金を奪って逃走するという何とも悪質な事件だ。
見ると犯行現場はさほど遠くなく、私も気をつけなきゃなと缶ビールを片手にテレビ画面を眺めた。
*
早く帰ろうと思っていたのに、気づくと10時半。店を閉め、暗い道を一人で歩く。
昨日テレビで見た事件が頭を掠め、思わず後ろを振り返る。
そこには薄暗い電灯がただただ夜道を照らしているだけだった。それでも怖くて、携帯を片手に早足で家へと向かう。
この時期忘年会をして酔っぱらったサラリーマンの一人や二人いていいはずなのに、何故だか今日は見当たらない。ため息をつくと、後ろから声が聞こえた。
「おい」
ポン、と肩に手を置かれ、頭上からは低い男の声。走馬灯のようにテレビで見た事件が頭をよぎった。走らなければ、と何度も強く思うのに、足は動こうとしない。こういう時にだけ、大きな声が出ない。
どうしよう。私殺されるのかな。頭も不幸なことしか考えられなくなって、さらに恐怖をあおぐ。
「なまえ、」
名前を呼ばれて、疑問を感じる。犯人が私の名前を知っているとは思えない。ようやく後ろに立っているのはトシだということに気づく。
ちょうどトシも同じく仕事帰りらしく、黒い隊服を着たままだった。
「何だ、トシか。驚かさないでよ」
今まで怯えていたのが可笑しくなり、ふにゃりと笑った。
「お前、こんな時間まで何してんだ。」
笑っている私とは正反対に、トシは深刻な顔をしていた。いつも以上に眉間にシワがよっている。
「仕事が終わるの遅くなっちゃって。浮気とかじゃないからね」
「そういうことじゃねェよ。最近物騒な事件多いんだぞ」
トシに心配されているのが嬉しくて、思わずまた笑ってしまった。
「何笑ってんだよ。こっちは心配してんだぞ」
「ごめん、ごめん」
頭を軽く小突かれ、それでもやっぱり嬉しくて。隣のトシの手を握り、その暖かさを感じながら、家へと歩いていった。