マヨ漬け。 | ナノ
「お前、ちょ、何」
見るからに慌てて冷や汗までもでている。すこし落ち着いてよ、トシ。彼女が自分のエロ本持ってたくらいで、そんなにビビらないでよ。
「はい、コレ。」
そんなトシを横目にごそごそとカバンをあさり、書類を手渡す。
「副長なんでしょ?忘れ物なんてしちゃダメよ」
クスリと笑って、肩を叩いた。呆然と立ち尽くしているトシの背中に声をかける。
「おい、なまえ、」
ブーブー
カバンの中から携帯のバイブ音がして、急いで取り出した。
「はい、もしもし」
『なまえちゃんかい?』
「なにかありましたか?」
『実は急にバイトの子が熱出しちゃってね。本当に申し訳ないんだけど今から来てもらえるかな?』
「ええ、大丈夫です」
『ありがとう。お給料はちゃんとはずんどくからね』
「フフッ、ありがとうございます。それじゃあ今から向かいます」
プツリ、と電話を切ってまたカバンにしまいこむ。
腕時計を見ると、あと15分程度で店に着けるはずだ。
「仕事か?」
「うん、急にバイトの子が休んじゃって。それじゃあもう行くね」
仕事頑張って、とトシに告げるて足早に立ち去った。
「よォ」
「え、トシ!?」
思ったより早めに仕事が終わり、今日のごはんは何にしようかななんて考えながら店を出ると、トシが壁にもたれて立っていた。
「し、仕事は?」
素直に喜べばいいのに私ったら何言ってんだ。
「あァ、終わらせてきた」
そう言うと、トシは私の荷物を持って歩きだす。ありがとう、と言いながら慌ててその跡を追う。
こうやってトシと並んで歩くの、久しぶり。1人で嬉しくなって、思わず口元が緩む。
「なァ、」
さっきまでずっと黙っていたトシが口を開いた。
「怒ってっか?昼間のこと」
昼間…?トシに言われて、少し考える。
「もしかしてあの…本のこと?」
隣にいるトシの顔をチラリと盗み見ると、少し不安そうな表情をしている。もしかして、ずっと気にしてた、とか?
「…フフ」
堪えきれなくなり、つい笑ってしまう。
「何、笑ってんだよ」
片眉を上げ、不機嫌になるトシ。なにか誤解しているようなので、慌てて否定する。
「彼氏が持ってるエロ本にやきもちなんて妬かないよ。安心して」
どうやらトシは、私がエロ本について怒ってると勘違いしたらしい。しかもそれをずっと気にしていたなんて。あまりにも可愛いすぎる。
もう一度小さく笑うと不機嫌そうにトシが呟いた。
「そーかよ」
あれ、なんか怒ってる…?心なしか歩調が速まった気がしてそれに合わせて私も足を速める。
「あのー、土方さん?」
「なンだよ」
何度名前を呼んでも返事をしなくなって、無言で帰り道を歩く。せっかく久しぶりに2人きりで帰っているのに、どうしてこうなっちゃうんだろ。
トシのその背中に小さくため息をついた。