マヨ漬け。 | ナノ


体の痛さに目を覚ました。むくり、と起き上がって辺りを見ると部屋は昨日とおんなじで何一つ変わっていなかった。窓からは太陽の日差しが射し込んで朝になったことを告げている。
そのまま寝ちゃったのか。さっきまで自分がうつ伏せて寝ていたテーブルを見て、小さくため息。きちんとベッドで寝なかったせいか、体の至るところがギシギシと痛む。

まだ、トシは帰ってこない。


昨夜のことを思い出して泣きそうになる。時間が欲しい、と。確かにそう言ってのだ。トシは今、なにを考えているんだろう。想像してみても悪いことしか思い浮かばない。
ぶるり、と震えた体を抱きしめる。布団をかけずに寝たために冷えたらしい。とりあえずお風呂に入ろう。ゆっくり立ち上がってぼさぼさの髪の毛を手ですいた。




バスタオルを首にかけながら髪を拭いていると、ピンポンとチャイムの音がした。宅急便かと思って片手に判子を持ちながらドアを押す。


「おはよう」
「………トシ」


そこには目を少しだけ腫らしたトシが立っていた。


「邪魔する」


私が止める間もなく、右手からビニール袋を提げたトシが部屋に入ってくる。戸惑いながらその後を追う。


「色々考えたんだけどよ」


トシの目は真剣そのもので私はただ黙って見つめるだけ。もう、なにを言われてもいい。ちゃんと受けとめよう。


「とりあえず謝るわ。悪かった」


頭を下げたトシのその行動にがく然とする。…ダメ、なの?


「無責任なことして悪かった」
「え、」
「結婚前にこんなことになるなんて、俺がもっとちゃんとしてたら……とにかくなまえには悪いことした」
「…」
「順序はいろいろ間違ったけど」


ごそごそと自分の隊服の内ポケットから小さな箱を取り出して私の目の前でそれを開ける。




「俺と、結婚してくれ」


そっと控えめに光る指輪がすべてを表していた。


「本当はもっとちゃんとした所で言いたかったけど」


黒髪から見える耳は赤くなっていて、トシも私と同じように緊張しているのがわかる。いつの間にか差し出された指輪がゆらりと揺れていた。


「わた、し生んでもいいの?」
「なまえ…?」
「トシとの子、生んでもいい?」


捨てられてしまうんじゃないか、と。子どもなんて面倒くさいと言われてしまうんじゃないか。不安で不安で仕方なかった。


「生んでいいに決まってんだろ。ていうか生んでください」
「ふっ、なにそれ」


濡れた目じりを指で擦られる。その温度にまた泣けてきてぽろりと一粒涙がおちた。


「泣かせてばっかだな、俺」
「そんな、」
「でも、ちゃんと幸せにするから。だから俺といっしょになってくれ」
「……はい」


好きな気持ちがあふれてきて、止まらなくなる。トシの掌を両手で包む。
好きな人がいるだけでどうしてこんなに幸せなんだろう。好きな人が私の存在を認めてくれているだけでどうしてこんなに泣きたくなるんだろう。


「っ、愛してる」
「…俺も」


もう何があっても、この人を離したりなんかしない。



END

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