マヨ漬け。 | ナノ
「で、依頼って?」
「あの、大したことじゃないんですけど」
「いいから言ってみ」
「相談にのってほしいんです」
言ってから、坂田さんが拍子抜けしたような表情になった。それだけ?と返されて頷く。
「…やっぱりダメでしたか?」
「いやいやそんなんじゃないから。…んで相談っつーのは?」
「トシのことなんです」
知り合いといえども、恋人とのことを話すのは気が引ける。いや、知り合いだからなんだろうけど。それでもこうして相談するのは、誰かにすがりたかったからだと思う。
「もしかして女のこと?」
「知ってるんですか?」
さっき見ちまってよ、と気まずそうに頭を掻いている。やっぱりこの人は優しい。今の今まで私にそのことを黙っていてくれた。
「それと、あと一つあるんです。」
「…?」
「妊娠してるんです、私」
いるであろう赤ちゃんの姿を想像して、ゆっくりとお腹を撫でた。坂田さんはそうか、と言ったあと少しだけ黙った。
「あいつには言ってねェんだろ?」
「…はい」
もちろん、トシに言いたい。だけどこの事実に両手を上げて喜んでくれるのか。彼にだって彼の人生がある。
「…少しぐらいの浮気だって別にいいんです。笑って許します。でも、この子の父親はトシしかいないんです」
「…」
この子を守りたい。誰よりも幸せにしたい。私一人じゃ何も出来ないけど、トシとならそれが可能になる。
視線を落として、着物の裾をぎゅっと握る。
「…男はよォ、」
「え?」
「女よりバカで欲望に弱い生き物だ。だけど自分の子供くらいはかわいいって思うもんじゃねーの?」
坂田さんの言葉に、あっけなく答えがでた。私はなんで一人で悩んでいたんだろう。
「ありがとうございます」
「おォ、気にすんな」
行かなきゃ、トシのところへ。会って全部話そう。子どものことも浮気のことも、私の気持ちも。
去り際にもう一度坂田さんに向けて大きく手を振った。