マヨ漬け。 | ナノ
病院の検査を控えていたある日、私は珍しく仕事が午前にあった。飲み屋で働いている私にとってあまりないこと。宴会があるらしく料理の仕込みを手伝ったり、掃除をしたりと忙しく働く。
やっと休憩になり、近くのコンビニへお昼を買いに行く。何を買おうかと悩みながら店内へ入る。
「ト、シ…?」
「なまえ」
入店すると同時に目に飛び込んできたのはコンビニの制服を着た女の子と抱き締めあっているトシの姿。女の子の頬は赤く染められていて、まさに恋人同士。そんな状況についていけない私はぽかん、と立っていた。
「いや、あのこれは、」
トシがしどろもどろになりながら必死に説明しようとしている。一方女の子は、いまだにトシを見つめていた。ていうか離れなさいよ!眉間に思いきり力をこめて、トシの説明(らしきもの)無視してくるりと背を向けてその場から立ち去る。
後ろから名前を呼ばれた気がしたけど、止まらずに歩き続ける。お腹がぎゅるりと空腹を訴えるが、それも無視。
「なまえちゃん、まだ休憩してていいのに」
「もう十分休みましたから」
仕事をしていないと先ほどの光景がまざまざと甦るようで、落ち着かない。ろくにお昼も食べずに、また仕事を開始する。
「…追いかけてくれないんだ」
ぽつりと呟いた言葉は空に溶けた。
喧嘩をして私が飛び出していってしまっても、トシは必ず追いかけてきてくれた。どんなに私が怒っていても、どんなに私が悪くても。なのに、何で?何でこういう時は追いかけて来てくれないの?一番にトシに否定してほしいのに。
不安にかられそうになる。今は仕事中なのだと自分に言い聞かせるも、うまくいかない。
あれは本当に浮気なんだろうか。まだ妊娠したかもしれないということさえ言えていないというのに、こんなことになるなんて。自嘲気味に鼻で笑ってみたけど、何も変わらない。