マヨ漬け。 | ナノ
家に帰ると、トシにこっぴどく怒られた。
仕事だから仕方ないでしょ、と文句を言うとギロリと睨まれてさらに説教。
自分だって遅くかえってくるじゃん。
俺はいいんだよ
なにがいいのよ
男だから。
男だからって誰かに狙われたり襲われたりしないとは限らないでしょ!
とにかくお前はもっと危機感を持て
持ってる!
持ってない
そんな押し問答を繰り返して結局私が折れることになった。心配し過ぎなんだよ、とトシに聞こえないように小さく呟いて背を向けた。
*
仕事帰り。
また遅くなってしまった。あれだけトシに言われてなるべくはやく帰るように努力したけど。サービス業である居酒屋の店員は、その日によって帰宅時間はまちまち。お客さんがたくさん来るほど、私の仕事は多くなる。それに一介の店員がはやく帰りたいです、と言えるほど世の中甘くない。
マフラーをきつく巻き、寒空の下へ出た。月がぽっかりと浮かんで夜道を照らす。
「お疲れなせェ」
どこかで聞いたことのある声に聞き、後ろを振り返る。
そこには真撰組一番隊隊長の沖田総悟が立っていた。
「総悟くん久しぶり。どうしたの?」
パタパタと駆け寄り、総悟くんに近づく。そんな私を見ながらにやりと笑って、もたれていた壁から離れる。
「土方さんの命令でさァ。家まで送りやす」
熱々ですねィ。大方、私を見張るよう言われたのだろう。部下を私情のことで使うなんて。トシのあまりの気遣いぶりにため息がおちる。
総悟くんと顔を見合わせて、思わず苦笑。
総悟くんに会うのはこれで3回目。1度目は屯所で会い、2度目は見回り中に。だんだんと仲良くなり、今ではメル友。そのメールの8割はトシの愚痴だけど。
「ごめんね、忙しいのに。」
年末は毎年真撰組は仕事に追われているのに、家まで送ってもらうなんて本当に申し訳ない。
「気にしないでくだせェ。それになまえさんを送らなかったら、土方さんに何言われるか分からねェや」
ニヤリと笑いながら私を見る総悟くん。顔が赤くなるのがわかり、慌てて視線を下ろす。
他愛もない話をしていると、総悟くんの携帯が鳴り響く。どうやら仕事の電話のようで、私には分からないような話をしている。いつもサボってばかりいる総悟くんも、こうしてみると本当に警察官なんだなあと感心する。
「仕事?」
話終わった総悟くんを見ながら聞いた。
「そうみたいでさァ」
「だったら行って?私の家もうすぐだし。」
真撰組の一番隊隊長を引き止めておくわけにはいかない。それでものんびりと構えている総悟くんを見て、なぜか私が慌ててしまう。
「ほら、早く!」
グイ、と背中を押してさらに急かす。いやでも、と歯切れの悪い答えに大丈夫だから!と返す。
「…それじゃあ気をつけてくだせェよ」
そう言うと、総悟くんは夜道を駆けて行った。彼の後ろ姿を見送り、私は一人暗い道をまた歩き始めた。