最近、十四郎さんと顔を合わせることが少なくなった。廊下で会うことも、食堂で会うこともなぜか不思議なくらいなくなった。 風邪でもひいているのかと仮にも妻という位置にいるわたしにはすこし気がかりで 「あの、すみません」 「あんたは…十四郎さんの奥さんじゃねえですかィ」 以前何度か見かけた一番隊隊長――沖田くんにおそるおそる声をかける。きょとんというかわいらしい音が似合いそうな大きな瞳 そんなことを十四郎さんに言ったとき見かけに騙されんな、と言われたことをふと思い出した。 「十四郎さんについて聞きたいことがあるんですけど」 「……あのクソマヨラーが何ですかィ」 同時に彼が十四郎さんをひどく嫌っていることも思い出す。現に十四郎さん、と名前を出しただけで纏うオーラというか雰囲気ががらりと変わった。 「最近見かけなくて…風邪でもひいているんですか?」 妻といいながら夫と顔も会わせないで、今風邪をひいているかどうかさえわからないなんて。 情けなさに奥歯を噛み締めた 「………あいつならピンピンしてますぜ、残念ながら。ただ、」 「ただ?」 「部屋に閉じこもってまさァ。大方寝ずに仕事でもやってるんでしょうけど」 「寝ずにってそんな…」 「あんま気にしないほうがいいですぜ?…この時期はいっつもそうだから」 「この、時期?」 「んじゃ俺は昼寝するんで」 「あっ、ちょっと」 制止の言葉に応えることもなく、そのまま行ってしまった。ぽつりとひとり残されたわたしの頭の中にはさっき沖田くんがぽつりとこぼした言葉が反芻されていた 時期、ってなんだろう あれは暗に十四郎さんがああして塞ぎこむのは初めてじゃないことを示してる。そしてそれは決まってこの、すこし暑くなった初夏だと。 「……十四郎さん」 会いたい 手をつないだだけの夫婦だ。お互いのことを知っているわけじゃない。それでも今、無性に土方さんに会いたかった。 会って、なんでもいいから話をして栄養のあるごはんを作って。 会いたい、とその気持ちがわたしの足を突き動かした 「十四郎さん」 襖ごしに声をかける。すこし経ってあァ、と短い返答があった。そんな短い言葉でも声が聞こえただけで嬉しかった。 「お茶を淹れてきました」 「……悪いな」 ゆっくり襖を開けてぺこりと頭を下げた。久しぶりに見る十四郎さんはやっぱりやつれていた。 「温かい日本茶と、おむすびを。最近まともに食事をしていないとお聞きしたので」 「あァ、助かる」 ぱくりとかぶりついてくれたのを見て、ほっと息を吐く。それでもまだ聞きたいことはたくさんある。 「沖田くんに聞きました。この時期には必ずこうして部屋に引きこもってしまわれると。……この時期って一体なに、」 「…名前、悪ィが出てってくれ」 「………十四郎さん、」 うつむいていて表情はよくわからない。その声は尖っているわけでもなく、怒気を孕んでいるわけでもない。 ただやんわりとした拒否。これ以上近づいてくれるなと警告されたような、そんな気分 「…用があったらまた呼んでください」 そう言い残して十四郎さんの部屋をあとにした。 思い返せばいつもそうだ。一緒に歩いてきたはずなのに、大事なときはそばにいさせてくれない。関係ないと突き放して、そのくせ優しくする。 『大丈夫ですよ、名前さん』 なにが、大丈夫よ。そのままわたしを置いて逝ってしまったくせに 「……先生」 男の人はいつだってずるい |