いろいろ | ナノ

「お見合いの話いただいたわよ」

小料理屋の仕事を終えて帰ってくると、母が嬉しそうな顔をして出迎えてきた。
以前から何度かそういう話をもらうことはあったけれど、全て断ってきた。母に「こんなに良い話なのにもったいない」と言われてもごめんと繰り返してかたくなに拒んできた。

結婚は、先生に対する裏切りだ。
もちろん生涯独身でいることは難しいことだし、いずれはわたしも結婚しなければならないだろう。それでもいまはすこしでも長くたくさんの時間先生を想っていたかった。

「だからまだ結婚はしないって」
「いいから一度だけでも見てみなさい」

いつものように断ろうとするが、なんとなく機嫌の良さそうな母に背中を押されて仕方なくちゃぶ台に置かれた封筒を手に取る。
中には相手方の写真と簡単なプロフィールのようなもなのが同封されていた。

「ね、良い男性でしょう?」

あなたにはもったいないくらいよ、と笑う母の言う通り写真に写っていたのは切れ長の目をした二枚目の男性だった。これでなぜ母がこんなに喜んでいるのか、その理由がはっきりした。
確かに、以前もらったどの縁談の男性たちよりも格好いいと失礼なことを考えてしまうほど良い男だ。

続いて素性が書かれた紙に目をすべらせる。名前、生年月日…そして職業が書かれた欄を見た瞬間に思考のすべてが持っていかれた。

真選組副長

「顔が良いだけじゃなく、ご職業も立派なのよ」
「…そう、だね」

本当にすごい方よね、と絶賛する母に適当に相槌を打ちながら、急激に喉がカラカラに干からびていくのを感じた。

先生を殺した相手であり、いわば敵。大げさな言い方になってしまうけれどつまりはそういうことだ。
当時、真選組は結成されておらずその前身となるものがあったということは知っている。だからこの土方という男も、もしかしたら間接的に先生の処刑に関わっているのかもしれない。そこまで考えたところで、自分が無意識に奥歯を噛み締めていることに気づいてそっと力を抜いた。

可能性の話をいくら考えたとしてもきりがない。それにもう先生はいないのだ。
何度も自分自身に言い聞かせてきたことをもう一度繰り返した。

「こんなに良い方なかなかいないわよ」

無表情にこちらを見つめる男をじっくり眺める。
よくよく見ていると眉間にシワが寄っていて、おさらく彼自身も第三者に勧められてこの話を受けたのだろうとちょっとした親近感を抱いた。


…これもなにかの縁なのかもしれない。
先生と、敵である真選組副長。もういい加減過去を受け入れろって神様が言ってるのかもしれない。
世間的に見たらこんな良い話わたしにはもったいないくらいだ。どうしてわたしのようなこんな田舎女に持ち出された話なのかわからないけれど、棚からぼた餅、きっともう二度とないことだろう。

「…そうだね」
「じゃあ!」
「会ってみるよ」

たどり着く先が結婚じゃなくても、会って顔を見て話をしてみるだけでもいい。

先生と正反対の人を選ぼうとしているのか、それとも先生とすこしでも関わりのありそうな人を選ぼうとしているのか。
自分でも、よくわからない。




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