いろいろ | ナノ
*土方さんと先生の立場が逆転
*限りなく私の妄想なので注意!
いつまでも死人にすがりついているのはいけないことだろうか。ましてや夫がいるのにも関わらず、昔の亡き恋人の影を追っているのは罪深きことなのだろうか。
机に置かれた一枚の古ぼけた写真を指でたどる。写真が嫌いなあの人と一緒に撮った数少ないもののひとつだ。
春、花見に行って周りにはやされながら撮ったっけ。付き合っているのにふたりの間の微妙な隙間が、今じゃ泣いてしまうぐらい懐かしい。
「どうしたんですか?こんな暗い部屋で」
「せ、先生」
不意にかけられた声に、飛び上がる。今夜は珍しく温かいからと障子を開けていたのだから誰が通りかかっても気づくだろうと思っていたのに。
それほどまでに集中していたのだろうか。
「なんでもないんです。ただちょっとぼうっとしていて。」
「……私は、」
わたしの言い訳をやわらかく遮るように、先生が口を開く。
「死者を尊ぶことは、決して悪いことだとは思いません」
「……」
「なにより恥ずべきことは、死者を忘れてしまうことです。」
「……先生」
「なんて。ただの独り言ですから気にしないでください」
にっこりといつもの笑みを浮かべて、わたしの手をとる。
「さあ、ごはんにしましょう」
「え?先生が作ったんですか?」
「ええ。たまには私がやるのもいいでしょう」
「ふ、楽しみです」
「あ、でもあまり期待はしないでください。貴方ほど上手くは作れませんから」
まったく、先生は狙っているのか、それとも素なのかまるでわからないから質が悪い。
でも、どちらにせよいつも掬い上げるような言葉をくれるからこの人には本当に敵わない。
「ありがと」
「?なにか言いましたか」
「なんでもないです」
―――――――――――
※ここから先私の勝手な解釈があります。
※イメージ等壊される可能性があります。
※大丈夫だよという方のみ、どうぞ!
「あ、すいません」
「どうかしましたか?」
「お手洗いに寄るので先に行っててください」
「わかりました」
居間へと向かう背中を見送ってから、くるりと方向転換する。
向かうのは彼女の部屋。開け放たれたままの障子をくぐる。机の上の乱雑に置かれた紙切れや書物を探せば、一枚の写真が出てきた。
切れ長の瞳に、口にたずさえた煙草。土方十四郎、その人だ。
私はこの男をよく知っている。彼女の元恋人であり、
『……ってめえ!!』
『弱い犬ほどよく吠える、とはよく言ったものですね』
『くそ、』
『さようなら、幕府の狗さん』
そして私がこの手で殺した男だ。
彼女は何年も職務中におきた不慮の事故で亡くなったと信じている。それでいい。
いくら彼女がこの男を偲んだってかまわない。なぜならあくまでそれは思い出でしかないのだから。
ぐしゃり。写真を握りしめる。
「貴方はせいぜい天国とやらで、私が彼女を抱いているところでも見ていてください。」
死者は、生者には勝てない。