いろいろ | ナノ
今日は驚いた。久しぶりに会ったあいつに、男がいて、しかも結婚すると。そしてその男があの土方だったとは。
ぐしゃぐしゃといつものようにはねまくっている髪の毛を掻いて歩みを進める。
幸せならそれでいい。たとえ選んだ男が真選組であったとしても、好きだというのなら何も言うことはない。怒らないのかと眉を下げて聞いてきたあいつの顔が思い浮かぶ。あの様子じゃ、くだらないことをさんざん考えたのだろう。
先生があいつのことを好いていて、あいつも先生を好いていたこと。縁側でふたりきりでいた。先生のメシは俺たちのものよりほんのちょっと多かった。先生といるときのあいつはいつもより大人しかった。
そういう些細なことをパズルみたいにちょっとずつ組み合わせていけば、子どもながらにふたりの関係をわかっていた。
『あの子のこと、よろしくお願いします』
先生がいってしまう数日前、そんなことを告げられた。あの言葉にどんな意味が隠されていたかなんて知らねえがもうあいつを守るのは俺でも、もちろん先生でもない。目つきの悪い、あんたとは似ても似つかない乱暴で不器用な男だ。
悔しがる先生の顔を想像して、ちょっとだけ口の端が上がる。
…あんたが悪いんだよ、先生。あんたが死んだりするからあいつは他の男のものになっちまったんだよ。先生が、いなくなったりするから。
「銀ちゃん!」
「銀さん」
背中に強い衝撃と腹にまわった腕。ぎゅっと年頃の娘にしてはやや強い力。
「なんだおめーらか」
「またパチンコでもやってたんですか?」
「まあな」
先生がいなくたって俺はそれなりに生きてるし、あいつだって別の男と所帯を持つ。でもそれでいいじゃねえか。忘れたわけじゃない、なかったことにするわけじゃない。
それで、いいじゃないか。