いろいろ | ナノ
*現代パロ
*先生と生徒
「せんせ」
「なーに?」
「…わからないところがあるんですけど」
「いいよ、ちょっと待ってて」
職員室には人がいなくて、奇跡的に先生だけだった。もう覚えてしまった先生の机のところへ行って近くにあった椅子に座る。
コーヒー片手にやって来た先生はなにが嬉しいのかにこにこ笑っている。
「どれどれ?」
「ここです。……なんでそんな笑ってるんスか」
「だって天才土方くんが質問しに来るなんて珍しいから。頼りにされてるみたいで嬉しくて」
天才だなんてそんな大層なもんじゃねえのに。
いまだって別に問題がわからないから、とかそういう訳じゃなく下心だけの行動なのに。こいつはひとつも理解しちゃいない。それが幸か不幸かは俺にもわからないが。
「あー、ここチャイム鳴ってたから説明あいまいになっちゃってたとこだ」
ごめんねえ、と眉を寄せる横顔を見つめる。
こんなに、近い。そしてこの瞬間この場所には俺と先生しかいない。
理性が揺れる。
心臓がうるさい。
なあ、いまあんたに触ってみてもいいか?
「土方くん?」
「…あ、はい」
「聞いてた?」
「………いや」
「まったく。じゃあもう一回説明するから今度はちゃんと聞いててね」
「すんません」
すらりとした白い指が教科書をなぞるたび、やましい気持ちが芽吹いていく。
ガキだと思ってるかもしれないが、俺だって男だ。きっとねじ伏せてしまおうと思えばそんなこといくらだってできる。でもそれ以上のなにかがある。欲望だけじゃない、なにか別の。
ガタ
急に物音がした。だいたい見なくてもそれがなんのために、誰が出したものかはわかる気がする。
「吉田先生」
「…まだいらっしゃったんですか」
隣にいるこいつの頬がわずかに赤くなっているのが忌々しい。小さく舌打ちをしたのには気づいていないらしく、視線の先は完全に吉田先生へと向かっている。
「そこにいるのは学年一位の土方くんじゃないですか。珍しいですね」
やんわりと目を細めて俺を見る。
…この男には全部ばれている。直接言われたわけじゃないが雰囲気でわかる。食えない野郎だ。
「どこかわからないところでもあったんですか?」
すっと近づいてきて覗きこむように見られる。
いままで二人きりだった空間がこの男のせいで一瞬で消えてしまったことが悔しい。
「大丈夫です、もう解決したんで」
「あれ、土方くんもういいの?」
「はい」
頬をほんのり染めて照れたようにはにかむ姿を視界から追い出す。ほかの男のためのそんな顔が見たかったわけじゃない。
あの男が近くにいると、いつも冷静な判断ができなくなる。頭がうまくまわらない。
俺が、俺じゃなくなる。
「…ありがとうございました」
教科書片手にぺこりと頭を下げると、また来てねとのんきに手を振られた。
すれ違う瞬間ちらりと吉田先生のほうに視線を向ければ、にこりといつものように微笑まれる。それが勝利を意味したものかはわからないがもちろん負けたつもりはない。
俺を選べばいい
(だけどそうして思いしるのは埋められない年の差と、未熟な自分自身)