いろいろ | ナノ
「さむっ」
はあ、と息を吐けば真っ白になって冬の夜に消えた。こんな真夜中にわたしはたったひとりで薄着のまま、ぺたぺたと外を歩いていた。
珍しく先生と喧嘩をした。……まあ喧嘩というか、わたしが勝手に怒っただけなんだけど。
子どもじみていて情けないと思うけど、素直に謝るのも気に入らない。どっちつかずの気持ちのまま、わたしが選んだのは逃げるというものだった。
「…」
さみしい
暗闇のなかでぽつり、ぽつりと灯る家の明かりをみて首をすくめた。寒さがわたしの心の奥までやってきてキンと冷やしていく。
先生、ごめん。小さく呟いてまた寂しくなる。
ああ、時間を戻してなかったことにしたい。もう一度やり直したい。後悔だけがふり積もっていく。
「名前さんっ!」
「せ、んせ」
ふと掴まれた腕に驚いて振り向く。その先には、はあはあと珍しく息を切らした先生がいた。
鼻の頭はうっすら赤くて、たぶんあれからずっとわたしを探してくれていたのだろう。
「探しましたよ」
「…」
ごめん、ごめんね。
たったそれだけ言えばいいのにわたしの口はいまだにぎゅっとひとつに結ばれたままだ。
どうして、意地っ張りなんだろう。ほんの3文字が言えない。
「…さあ、帰りましょう」
わたしの気持ちを察したのかどうかはわからない。だけど先生が優しく頭を撫でてくれた。
こくん、と頷いたのを見てふわりと笑って手をとる。わたしの冷えた手と、先生のぬるい体温が混ざりあう。
先生の優しさに涙が出そうになって必死にこらえる。泣くのは負けた気がするから、繋がれた右手に力をこめた。そして先生がふふっと肩を揺らして、応えるように握りかえされる。
そんな、あたたかな冬の夜の話。