いろいろ | ナノ
※写真の中のあの子続き
わたしと高杉は付き合っている。恋人同士だ。
でもひとつだけ、他のカップルと違うところがある。高杉にはわたしよりもっと大好きな人がいるってこと。
「あちー」
「アイスないの、アイス」
「んなもんねーよ」
「えー、買ってきてよ」
「あ?ふざけんな。このくそ暑ィ中行くわけねえだろ」
「この前わたしにコーラ買いに行かせたくせに。」
「………なに食いたいんだ」
「わーい!」
しぶしぶ財布を片手に立ち上がった高杉にガッツポーズ。ガリガリくんをリクエストしてクーラーのきいた部屋で足を伸ばす。
玄関のドアの音がしたから、もう高杉はいないはずだ。ベッドの下に手を入れてごそごそ探ると、指先になにかが触れた。
「…あった」
あれから高杉のベッドの下には変わらずこの写真があるし、わたしもそれを問いつめるようなことはしなかった。わたしがこの写真の存在を知っているなんて、高杉は想像もしていないだろう。
背後にあるベッドに頭をのせて、かざすように写真を持つ。きらきらして見えるのは照明のせいか、それとも彼女の笑顔のせいか。
まぶしくて目を細めた。
「…なにしてんだお前」
「………高杉」
いつの間に帰っていたのか、部屋のドアのところに高杉が立っていた。
睨みつけているというか呆然と立ち尽くすと言ったほうが正しいかもしれない。わたしのほうも、慌てて言い訳をするでもなくばれてしまったと諦めるようなそんな感じ。
「お帰り」
「……」
「ガリガリくんあった?あ、もしかして暑くて溶けてたりして」
「…知ってたのか」
がさり、とビニール袋が音をたてた。
「うん」
右手に持った写真をテーブルの上に置く。ゆっくりと高杉がわたしの前に座る。そしてすこしだけ、沈黙。
「ごめんね、勝手に見ちゃって」
「……聞かねェのか、こいつのこと」
聞けば、たぶん高杉は教えてくれる。隠し事はするけど嘘はつかないやつだから。
「うん、いい。……高杉の大切なひとなんでしょ?」
「ああ」
恋人のわたしよりもっともっと大切なひと。なにも知らなくてもそれぐらいはわかる。
高杉がまた写真に視線を落とす。その瞳が愛しいと叫んでる。甘くてすこし切ない。
「高杉!」
「な、んだよ急に」
「わたし帰るね!」
「っおい」
大きな声で宣言して走り出す。うしろから名前を呼ばれたけど止まる気はない。高杉の家を出て、近くの公園まで走ってようやく足を止めた。
外は太陽が照りつけてかなり暑い。ぽたりとアスファルトが染みた。
「っひ、ぅ」
汗じゃない、しょっぱいものが頬に流れる。
高杉の部屋で初めてあの写真を見つけたときだって、泣かなかったのに。
「うわああん」
バカみたいに大きく口を開けて泣きわめく。こんなに激しく泣いたのは、子どものとき以来だ。
ホントは、一番になりたかった。高杉の一番にいつだってなりたかった。
彼女になっても、たとえ結婚してもわたしはあいつの『一番大切なひと』にはなれない。
なんだってするよ。
高杉が望むことは全部叶えてあげる。働きたくないならわたしが稼いであげるし、暑いなかコンビニだって行ってあげる。
だからわたしを、高杉の一番にしてよ。