小さな窓の外は心なしかさっきよりも明るくなっている気がした。多分もう午前の2時はとっくにまわっているだろう。こんな夜中まで起きるのはあまりないので正直ちょっと辛いとは感じていたが、明日は休日だということがせめてもの救いだった。ザーザー降っていた雨ももうこの時間になると小雨程の勢いに収まっていて、安心した。名前は黄色いレインコートをまた羽織り、ガラガラとお店のちょっと壊れかけている引き戸を力一杯引いて外に出た。お店のおじさんがありがとうございましたと低く言った声とバサリと傘を開いた音がシンクロした。

「その黄色のレインコート名前ちゃんに似合うねー。」
「これしかなかったから着ただけ。」
「もう抱きしめたいぐらい可愛いよ。」

佐助はそう言っていつもよりも余計に笑っている。きっと酔っているせいだろう。ただでさえ絡まれると面倒な奴なのに、酔っている時はもっと面倒だ、と名前は思いながら歩き出した。すると佐助は慌てて傘の中に名前を入れて後に続いた。

「レインコート着てるからいい。」
「やったー!名前ちゃんと初相合傘ー。」
「…………聞いてないし。」

名前が溜め息を吐くと反対に佐助は笑った。そして笑いながらそっと名前の手に触れた。名前は吃驚してぴくりと肩を震わせ、目をまあるくした。そんな名前の姿を見て、佐助はまたぷっと笑った。

「名前ちゃんって結構ウブだよねー。」
「五月蝿い。」
「まるで真田の旦那みたいだよ、好きだなあ。」
「殴りてえー。」
「やめてよー、怖いなあ。」

いつもならちょっと悪口を言っただけで凹むような佐助が、今日は珍しく折れない。お酒の力、強し。こうなってしまったら彼を押さえるのには相当の力が必要になるから名前は諦めて佐助をめいいっぱい睨んで抵抗した。だが彼は全然気づいていないようだ。

「…………(あ、)。」

よく見たら、佐助は傘を名前が濡れないようにわざと名前の方に傾けているから左の肩が濡れていた。彼の睫毛や橙色した髪の毛は、小雨の小さな水滴が留まっていて、街灯の光がそれらを照らしてキラキラしていた。

「風邪ひくよ。」
「平気平気。風邪なんてひくようなやわな身体じゃないよ、俺様は。……あ、でも風邪ひいたら名前ちゃんに看病してもらえるからちょっとひいてみようかな…………。」
「……しないよ、看病。」
「ツンデレ最高ー!」
「…………(もう絶対に知らん)。」

テンションが下がる名前を他所に、佐助は益々機嫌が良くなった。そしたら急にテレサテンの時の流れに身をまかせを鼻唄で歌い始めたから、懐かしい、と名前は小さく呟いた。



20100322.



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