き、すき、だいすき、あいしてる。 本を読むグラハムの髪の毛をくるくる指でもてあそぶ。柔らかな金髪にかける言葉は愛の言葉。今日は彼の誕生日だから、いつも以上に愛をあげる。まだパーティーには早いといってもごちそうもケーキもプレゼントも、もうほとんど用意ができているというのにグラハムはずっと読書に夢中。なんだかおもしろくない。 わたしがあまりにグラハムにちょっかいをかけるから、堪忍したのかグラハムは古ぼけた本をぱたんと閉じてわたしに微笑みを向けた。こんなご時世に紙媒体で本を読むのはグラハムくらいだ。
「随分と可愛らしいことをしてくれるものだ」 「グラハム」 「構って欲しいのかな?なまえ」 「うん」 「今日はいたく素直だ」
グラハムが両手を広げておいでのポーズ。わたしはすりすりとグラハムにすり寄った。子供をあやすようにグラハムはわたしの背をなでる。いつかグラハムはそんなわたしを猫みたいだと笑ったのを思い出した。でもわたしはたぶん、どちらかというと主人の帰りを健気に待つ忠犬に、近い。
「あたしと本、どっちがいいの」
テーブルに置かれた本に目をやって、嫌みったらしくそう言った。なんてヤな女。でもわたしをそうするのはいつだってグラハムだもの。わたしはそう自分にいいわけをする。
「果たして君に勝るものがあったかな」 「空」 「…随分と痛いところを突く」 「だってそうでしょう」
いつだってわたしは二番手だと、そういう自覚は十分すぎるほどあった。いや、下手をしたら三番手か、それ以下かもしれない。グラハムはわたしよりガンダムやフラッグの方が好きなのではないかと思うことがある。でもわたしはそれでいい。人間の中では一番愛されてると思うから。
「ねえグラハム、今日だけあたしを一番にして。空より好きだって言ってよ、おねがい」 「おかしなことを言う」 「今日だけでいいから。誕生日でしょう」 「今日は君ではなく私の誕生日のはずだが…」 「空は誕生日なんて祝ってくれないわよ。わたしと違って」
ごちそうもケーキもプレゼントも、なんにも用意してくれないわよ。わたしと違ってね。そうやってふてくされるわたしに苦笑して、グラハムは優しいキスをくれた。
「君を世界で、いや宇宙でいちばん愛しているつもりだったんだが」 「もう」 「ああ言うからには私は君の一番なんだろうな?」 「もちろんよ。この世でいちばん愛してる」 「足りないな」
好き。好き、大好き、言葉にできないくらい好き。ずっと一緒にいたい。片時も離れたくない。愛してる。たまにキスを交えながらわたしの最大限の愛を言うと、グラハムは満足げに微笑んだ。わたしの頬を撫でる手のひらがいとおしい。普段操縦桿ばかり握っている手が、今日ばかりはわたしだけのためにある。そんな気がした。
「最高のプレゼントだ」 「ちゃんと買ってあるのに…誕生日おめでと」 「ありがとう、なまえ」
明日にはわたしはまた二番手になってしまうけど、そんなことどうでもよくなるくらいに幸せだった。
Happy birthday Graham
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