昔からかっちりとした服が苦手だった。小学校の入学式も卒業式も堅苦しい服が嫌で駄々をこねた記憶があるし、中学も初めの半年は制服が嫌いで嫌いでしかたがなかった。高校に上がるとさすがに慣れたが、それでもわたしの正装嫌いは直らない。審神者になる少し前、友達は成人式ではどんな振袖を着ようか盛り上がっていたけれどわたしはあんな重っ苦しい格好には惹かれなかった。まさかこんな形で苦手なかっちりとした服を着なければならないなんて思ってもみなかったもんだから憂鬱なことこの上ない。審神者になってから格好のことで悩まされることが増えた。和装に正装、どれもわたしの苦手な部類だ。
「制服じゃだめなの?」
「この度の会合は審神者の方々だけでなく多くの政府官僚も参加すると聞いています。こちらの方がよろしいかと」
一期一振は真面目だ。わたしなら迷いなく制服で行っただろうにスーツの方がいいと言う。どうも着られているような感じが拭えないが、一期一振の助言に従って不都合が起こった試しはないからまあいいかと腹をくくったところまではよかった。刀のくせに気がきくものだと感心しつつ彼の薦めで大急ぎで調達したスーツはジャストサイズというわけにはいかず、袖が長くて見栄えが悪かった。余計着られている感じが増す。ここで初めてスーツにしたことを後悔した。
「袖は直しておきましょう」
後ろから伸びてきた一期一振の手がするするとわたしのスーツの袖をまくった。ちょうどいい丈に両袖を揃える。そのあいだ一期一振の細く滑らかな髪がわたしの肩にあたるものだから気が気ではなかった。彼は何故だかいい匂いがした。前の主の影響だかなんだか知らないが上品な軍服を上品に着こなす彼から香る匂い、とすれば不思議と納得はいった。鏡の中の自分を見る。このあいだまで、というか本来ならば現在進行形で女子高生であるはずの自分がスーツに身を包んでいるのは滑稽と言う他ないように思えた。わたしも彼くらい立派に着こなせればよかったんだけど。これじゃあ制服で行って笑われるのと変わらないんじゃないだろうか。袖を直したところで。そう思うとため息が出た。
「如何されました?そんな深いため息をつかれて。何か不満でも」
「だって。あんまり似合わないから」
「何を仰います。大変よくお似合いですよ」
「そうかな」
「ええ」
さっきまでこっちがいいあっちがいいと比べていたブラウスを畳む一期一振を見下ろす。そりゃ、あなたくらい上背があって顔もよければなんでも似合うだろうけど。鏡の中の自分は背も高くなくスタイルが良くて細いわけでもなく、顔もいいわけじゃない。制服のがよっぽどマシに見えるのはわたしだけじゃないはずだ。
「わたしやっぱり制服にする」
「折角準備しましたのに」
「似合わなさすぎるもん」
「そんなことありません。もう一度よくご覧になってくださいな」
一期一振はすくっと立ち上がると、わたしの両肩を抱いて鏡に向き直らせた。ほら、ね。なんて微笑まれてはもう何も言えなかった。