鶯丸が審神者をお嬢呼び
晩ごはんはもうすぐだけど、どうにもおなかがすいた。晩ごはんを待っていたら空腹で死んじゃいそう。こういうときは長谷部に言っても国広くんに言っても無駄なのは知ってる。我慢しろと言われるに決まってるからだ。歌仙もそう。一期もそう。太郎はいつも食べ物を持ってるわけじゃないからバツ。いちばんいいのは鶯丸。いつもなにかしら部屋にお茶菓子を蓄えこんでいるし、ごはんどきだから我慢しろなんて殺生なことは言わない。 「鶯丸ーおなかすいた」 鶯丸の部屋に突撃すると鶯丸は難しそうな本を広げていた。昔のミミズみたいな字はわたしには読めないし何の本はどうでもいい。鶯丸は干菓子があると言って抽斗を漁り始めた。察しがよくて助かる。干菓子!かわいくて甘くて大好きだ。 「お嬢、おいで」 お菓子が入っているであろう小さな木箱を取り出した鶯丸はあぐらをかいてその膝をぽんぽん叩いた。座れってこと?なんでもいいからお菓子がほしいのでおとなしく座る。満足げな鶯丸が箱を開けてみせた。中には桜の形をしたピンクの小さな砂糖菓子。 「わあ!かわいい!」 「お嬢が気に入ると思った」 鶯丸は柔らかく笑ってわたしの頭を撫でた。もう、そんなのいいからはやくちょうだいよ。むすっとしてみせると堪忍したのか鶯丸は箱から干菓子をひとつつまんだ。 「口を開けて」 「自分で食べられるよ」 「いらないのか?」 もう!仕方ないから口を開けた。鶯丸の指が思ったより深く入り込んできて驚いた。舌の上に干菓子を置いても指がどかない。ちょっと。無言で文句を言っても鶯丸は素知らぬふりで笑みを崩さなかった。 「細かいことは気にするな、食べなさい」 無茶言う。恐る恐る口を閉じようとしたけど唇が鶯丸の指に当たるのが気になって仕方がない。干菓子がじんわり舌の上で溶けていく。いいから、と言われても。何もできずにいると鶯丸の指先が舌を這ってぎょっとした。唇の裏、歯の裏、好き放題触り始めた。ちょっ、ちょっと。舌の上のお菓子はもうすっかり行き場がない。やっと指が抜かれて、わたしは危うく干菓子をそのまま飲み込むところだった。 「うっ、鶯丸」 とにかく鶯丸になにか言いたくてバリボリ干菓子を噛み砕いた。あーあ、かわいかったからもっと味わいたかったのに。それもこれも全部鶯丸のせいだ。 「そんなに急くことはないのに」 「そうじゃなくて」 「うまかったろう」 いやおいしかったけどさ、そうじゃなくて。答えられずにいるとくいっと顎を掴まれた。えっ、えっ。まだ砂糖の甘さの残る口内を鶯丸の舌が這う。隅から隅まで。息が苦しい。わたしを腰から撫で上げた鶯丸の手が胸まで達し、あろうことか、揉んだ。体が変な感じがする。反抗しようにも体に力が入らない、気持ちいいと思ってしまった。 「んっ…ふあっ…」 塞がれた唇からわたしのものとは思えない甘い声が漏れた。服の上から執拗に胸を触られるのがもどかしいくらいに思えてきた。ようやく解放されても体が熱くて息が上がる。 「ん、甘いな」 「はあっ、はあ…鶯丸、ちょっと…」 思わず脱力したわたしを鶯丸は片手でがっしりと抱え、もう片方の手の親指で唾液の滲んだ口の端を拭われた。鶯丸は意地悪く笑っている。は、謀ったな…!ぐっと力のこもった手のひらで頬から額まで撫でられる。鶯丸の端正な顔がすぐ近くまで迫ってきて、うるさいくらいに心臓が鳴った。 「もっ、もうすぐごはんの時間だから…鶯丸、」 「夕餉前に菓子が欲しいと言った悪い子は誰だ?」 ぺろりと唇を舐められて背筋が震えた。たしかに、鶯丸の言うことはもっともだけど。でも。ていうかいつもは二つ返事でお菓子くれるじゃん!間近にある鶯丸の顔を見ていられなくて目をそらそうとしたけど、じいっとわたしを見つめる鶯丸の視線に射抜かれて不思議と目が離せない。 「仕置が必要だろう」 「はっ?」 「まあ、悪いようにはしないさ」 鶯丸がわたしの服に手をかけた。ちょっ、ちょっと!さすがにやばいと暴れようとした瞬間、廊下からごはんだよと燭台切のよく通る声がして鶯丸の手が止まった。 「残念だな」 はあ、助かった…。急いで鶯丸の膝から飛び降り、彼に背を向けて服を整えた。心なしか体の芯がまだ熱く、もどかしい感情が残る。おそるおそる振り返るとにんまり笑う鶯丸と目が合う。ばっと目をそらしたけれど、立ち上がった鶯丸がすぐ後ろに来ていた。お尻をすうとなでられる。 「また夜においで、お嬢」
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