「ブッ」
蛍くんが吹き出した。朝一番、わたしの顔を見て、すぐに。なんて失礼な奴。ありえない。キーッ!なにがおかしいのよ笑うんじゃないやい蛍くんのバカーッ!
「だって…ブフッ、おかしいでしょその前髪…しかもなんでおデコにガーゼしてんの?フ、フフ、プッ!」
「け、蛍くん!笑うな!」
「いやだって…もうそれ前髪ないじゃんブッ、ハハ、アハハハ!フッ、アハハハハハ!はあーっ、ウケるホントウケるなんなのそれギャグなの?前髪ない上にデコガーゼって…ヤバいんですけど」
事の顛末を説明しよう。昨日わたしは前髪を切った。そして案の定失敗した。ギャー!と悲鳴を上げると何事かとお兄ちゃんがやってきた。お兄ちゃんはわたしの顔を見た途端ヒーヒー腹を抱えて大爆笑。ムカついたわたしは黙れコナクソォ!という叫びとともにクソ兄貴に頭突きを食らわした。このあんちくしょうが石頭なのも忘れて!クソヤロウの反撃を食らったわたしのデコは真っ赤に腫れた。超痛い。しょうがないから手当をしたけど、前髪が超絶短いせいでガーゼが丸見えなのだ。死にたい。学校に行きたくないと喚いたがお母さんにシメられて泣く泣く来たというわけだ。蛍くんが欠席していることを強く願って。絶対に、絶対に、絶対絶対絶対絶ッ対に見られたくなかった。いやだって笑われるの目に見えてるし。蛍くんはこう見えても無遅刻無欠席の健康優良児なので、普通に来ていた。憎い。
「よくそれで学校来れたね…ブフッ、なまえちゃんどんだけ大物なの、プッ、ウケる」
「ウッセーー!」
「ブフッ、アハハハハ!ちょっとこっち見んやめてくんない?おもしろすぎ!あーお腹痛」
「蛍くんのバカ!アホ!スカタン!ウンコ!」
あんまりにも蛍くんが笑うから泣けてきた。フツーそこは彼氏として変じゃないよ(変だけど)、とか似合ってるよ(似合ってないけど)、とか言うもんじゃないのかバカバカバカ!蛍くんはわたしがバカとかウンコとか言ったのに目ざとく反応してデッカイ手でわたしのほっぺを下からムギュッとした。蛍くんはちょーっとムカつくことがあるとすぐこうする。だけど涙目で歯ぎしりするわたしを見て蛍くんはギョッとして手を離した。
「ちょっと、なんで泣くわけ」
「蛍くんがウケるとかブスとか恥さらしとか言うから」
「言ってないし」
「言ったよ!」
「ウケるしか言ってなくない?」
「つべこべうるさいよバカ!」
「うるさいのはおまえだよブス」
「ホラ言ったー!」
「はあ、泣くからブスになるんだよ」
乱暴に顔にハンカチをおしつけられる。男子のくせにハンカチ持ってるなんてなんてやつ…思いっきり鼻をかんだらブン殴られた。いって。殴られたとことおデコのタンコブがずきずき痛んで余計泣けてきた。わたしは蛍くんのハンカチに顔をうずめてズビズビ泣いた。今度からちゃんと美容院行きなよ。蛍くんがそう言ってぎこちなくわたしの頭に手を置いた。ウン、と言うのと一緒にまた鼻をかんだらまた殴られた。
「お願いだからそのハンカチもう僕に渡さないでね…はあ、まあ、あれだよ…結構悪くないからさ、もう泣くのやめな、ね」